最新記事

米中関係

米中「環境分野で和解」は幻想か...両国が妥協できない最大の障害は?

LIMITS TO CLIMATE COOPERATION

2021年5月11日(火)19時50分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)
副大統領時代のバイデンと習近平(2012年2月、ロサンゼルス)

副大統領時代のバイデンと習近平(2012年2月、ロサンゼルス) David McNew-REUTERS

<対立が深まるアメリカと中国だが、協力を望める数少ない分野の1つは環境対策。関係改善に欠かせないものとは>

米中対立が厳しさを増す一方で、気候変動対策で米中が協力する前向きな兆しが見えてきた。

4月、米バイデン政権で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使が訪中し、「米中が互いに協力していく」とする共同声明を発表した。米中は、気候変動対策の協力で対立関係の悪化を避けようとしているのかもしれない。しかし、その前途には地政学的な地雷原が待っている。

米中が今、なぜ責任を持った振る舞いをするのか理解するのは難しくない。両国は、気候変動を国の存続を脅かす脅威と見なし、協力することに強い関心を抱いている。ジョー・バイデン大統領と習近平中国国家主席は、気候変動対策に抵抗したり妨害したりすれば国際世論を敵に回すと分かってもいる。

冷戦期、資本主義と共産主義のイデオロギー対立は世界を分断し、同時に同盟関係を強固にした。しかし今後10年では、アメリカも中国もイデオロギーだけでは友好国を勝ち取れないだろう。中国共産党は、もはや語るべきイデオロギーを持っていない。

一方アメリカの栄光も、政治的分断とトランプ主義によって汚された。だが気候変動は人類の存続を脅かし、この問題に対処するリーダーシップは国際協調を形作る。

共同声明が具体的でなかった理由

今後は、米中が対策を実行に移せるかが試されることになる。4月にバイデンが主催した気候変動サミットの直後、中国の王毅外相は、アメリカと協力できるかは、アメリカが「中国の内政問題に干渉」するかどうかに懸かっていると示唆した。

中国はチベット、ウイグル、香港、そして何より台湾を「内政問題」と位置付けているが、ケリーは中国の協力を得るためにこれらの問題で妥協することはないと明言した。どちらかが姿勢を軟化させない限り、これらの問題をめぐる緊張が米中協力を危うくしかねない。

さらに、米中が気候変動でどんな協力をどれだけ実行できるかも不明だ。共同声明が具体策を欠くのには理由がある。相互不信の中で、両国共に拘束力のある約束をする気はないからだ。

結果として、気候変動対策に関する米中協力は、不安定で控えめ、せいぜい徐々に拡大していける程度のものだ。相互不信と敵意が邪魔して、両国が大きく前進することはできないし、双方とも自分に有利に交渉を進めようとする。期待できるのは、時間をかけて協力を拡大するプロセスだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

政府、25年度成長率の下方修正検討 1%未満の可能

ビジネス

日経平均は続伸、円高一服などで4カ月ぶり高値 3万

ワールド

イラン議会、IAEAとの協力停止法案承認=報道

ワールド

アングル:NATOの北の守り固めるフィンランド、一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 10
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中