コラム

習近平は西側の味方か

2010年10月19日(火)18時31分

pass_101010.jpg

王子 元副首相を父親にもつ血筋のよさは習の泣き所
Sergei Karpukhin-Reuters

 ジョー・バイデン米副大統領が、08年大統領選の予備選で民主党候補の座を目指して戦っていた頃のこと。当時ライバルの一人だったバラク・オバマの経験不足を、バイデンは容赦なく攻撃した。「大統領というのは、やりながら学べるような仕事じゃない」

 中国ほど、この言葉がふさわしい国はないだろう。長い年月をかけて下級官僚から地道に共産党内での地位を高め、食うか食われるかの世界でトップを目指して突き進む。成功するには党への忠誠心と経済分野での功績、舞台裏での巧みな駆け引きがカギとなる。

 10月18日、中国共産党の第17期中央委員会第5回総会で習近平(シー・チンピン)国家副主席が中央軍事委員会副主席に就任することが決まった。これは習が中国政界の厳しい出世レースを勝ち抜き、胡錦濤(フー・チンタオ)の後継者として2012年に国家主席に選出されることが内定したことを意味する。中国の指導者になるには、軍の監督役としての経験は欠かせないものだ。

 欧米にとっては、習は好ましい後継者だろう。ブルッキングズ研究所の中国専門家チョン・リーは07年の記事で、次のように説明している。


 地方の経済改革を主導した経験がある習は、市場寄りの改革路線に肯定的な人物で、担当した各行政区で民間産業の促進に力を注いでいた。彼が政策的に重視しそうなのは、経済効率の向上と市場開放の促進、経済成長率の維持、そして世界経済と中国経済の結びつきを強めることだろう。


■李克強副首相の線も消えていない

 習の泣きどころは「王子様」的な生い立ちだ。これまでも献身的な働きぶりを評価されたというより、一族が培ってきた人脈を武器に出世してきた。父親は習仲勲(シー・チョンシュン)元副首相だ。

 国内では、共産党のこうした若手グループに対して批判的な見方も多い。しかし習の場合は確かな実績があり、評判も高い。08年に監督役を務めた北京オリンピックは見事に成功し、昨年には建国60周年の記念式典を取り仕切った。法学の学位と化学工学の修士号を持ち、汚職に対しては厳しいことで知られる。ちなみに妻は有名な人民開放軍の歌手だ。

 習は10月13日に行ったマックス・ボーカス米上院財政委員長との会談で、アメリカと協力関係を強固にしていくことを約束した。しかし過去には、外交的に好ましくない発言をしたこともある。09年に中南米を歴訪した際は現地の反米熱に感染したかのようで、集まった中国系移民たちの前でこう語った。

「自分たちは腹いっぱい食べておきながら、私たちの問題を非難するばかりで何もしない外国人がいる。しかしわれわれ中国は、第1に(共産主義)革命を輸出しない。第2に、貧困と飢えも輸出しない。第3に、国外における不要なトラブルの原因にもならない。それ以上、何があるというのか」

 多くの専門家は習が胡錦濤の後継者になるとみているが、李克強(リー・コーチアン)副首相との後継争いの噂も消えてはいない。党内に強い影響力を持つ共産主義青年団から支持される李は、胡錦濤からの庇護も受けていた。

 もっとも今のところは、習と李の間に亀裂があるようには見えない──少なくとも、国民の目に触れるほど明らかな形では。李は中国の政治体制におけるナンバー2である首相として、温家宝(ウエン・チアパオ)の後継者になるとみられている。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2010年10月18日(月)06時41分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 19/10/2010. © 2010 by The Washington Post. Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story