コラム

パレスチナ女レーサーたちの挑戦

2010年06月29日(火)16時20分

 パレスチナ自治区ガザ地区への支援船が妨害されるなか、ヨルダン川西岸地区では、8人の女性レーシングチーム「スピード・シスターズ」がさまざまな壁を突き破ろうとアクセルを踏み込んでいる。

 この恐れを知らぬ女性たちは、18歳から39歳までのキリスト教徒とイスラム教徒たち。6月25日に西岸の都市ラマラで行われた競技「スピードテスト」に出場した。このレースは、全米ストックカー・レースNASCARが子供の遊びに思えるほど過酷だ。ヘルメットをかぶった70人の選手が、危険な障害物をよけながら曲がりくねったコースを疾走。何千人ものファンが声援を送った。

 鮮やかなネイルを強調するように指穴の開いた手袋でハンドルを握るスピード・シスターズの8人は、観衆の興味を特にかき立てたかもしれない。何しろ彼女たちはスピードテストに出場した初めての女性チームだ。5年前の第1回レースに出場した女性(現在は彼女たちのコーチ)の跡を継いでいる。

 スピード・シスターズの多くはレース中、イギリス国旗入りのTシャツを着る。スポンサーである東エルサレムのイギリス領事館に敬意を表すためだ。領事館のスタッフがチームの結成を後押しした。訓練やコーチの費用、車の改造のために約8000ドルを領事館が補助した。すべては、パレスチナ難民が住む西岸地区などの発展を支援する運動の一環だ。

 資金援助があっても、彼女たちにとって「ゴール」への道は険しい。共用の車は寄付されたハッチバックで、他選手が乗る高馬力のBMWやメルセデスの車に比べて明らかに見劣りする。それに彼女たちは男性レーサーから懐疑的な目で見られている。

 とはいえ、男性が支配する分野での女性の活躍は、保守的なイスラム社会に良い刺激を与えている。高まる政治的対立のせいで社会的平等の実現に焦点が当たりにくい地区においては、なおさらだ。

──シルビー・スタイン
[米国東部時間2010年06月28日(月)16時31分更新]

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story