コラム

オバマはハイチの大統領か

2010年01月21日(木)15時51分

 ジョージ・メイスン大学の経済学者タイラー・カウエンは、バラク・オバマ米大統領の政治生命がハイチの混沌に左右されることになりかねないと懸念する


 オバマは今や一期限りの大統領で終わる可能性が高くなった。海外援助は、財政負担が少ない割には不人気だ。(保守派の人気司会者)ラッシュ・リンボーたちがいつもにも増して汚い攻撃を始めていることにお気づきだろうか(たとえばこのサイトによるとリンボーは、アメリカはハイチを救援する必要などないのにオバマは黒人ウケを狙ってやっていると公言している)。人々がオバマは「(内政より)よその黒人を優先している」とささやき始めるのはいつのことか、アメリカ人の民度が試されている。

 イラクやアフガニスタンからの撤退が容易ではないように、ハイチから手を引くのもそう簡単ではないだろう。

 医療保険改革は難題と思えたかもしれない。いやそれも、温室効果ガス削減のためのキャップ・アンド・トレード方式導入に比べればましだと思った人もいるだろう。だが、ハイチ救援はそれらよりはるかに大きな難題となるかもしれない。何しろこんなことは、誰の計画にもなかったのだから。オバマが多くの支持を得られないのは、この戦いでも同じだろう。多くの民主党系の利益団体も心の中で、オバマがハイチのことなど忘れてくれたらと願っているかもしれない。

 夜のニュース番組で大規模な飢餓が中継されれば、オバマのイメージも悪くなる。人口が900万人を超える国家の崩壊を取り仕切る立場とは、いったい何を意味するのだろう。それを思い知らされようとしているのは、日増しに無力さをさらけ出しているハイチの大統領ルネ・プレバルではなく、オバマだ。ハイチの人々が一心に見詰めているのは、オバマ大統領なのだ。


■住民に歓迎される本物の貢献

 コラムニストのケビン・ドラムは、左派系の雑誌マザー・ジョーンズのブログで反論する。アメリカがハイチに投じる資源は「金額的にも軍事的にも、政治的に深刻な火種になるほど大きなものにはならないだろう」。

 わかりきったことを言うようだが、イラクやアフガニスタンと違って、ハイチの米軍は現地住民から攻撃を受けてもいないし、おおむね歓迎されているようだ。もちろん、アメリカだけでハイチの国家機能を回復したり人道的大惨事を防ぐことなどできない。きっと、他の国々も立ち上がって負担を分担してくれるだろう。

 それでも今後の数週間、被災者の想像を絶する苦しみを軽減する上でアメリカが大きな力を発揮できるのは間違いない。国内の政争がその妨げにならないことを祈ろう。少なくとも理想の世界では、アメリカの力はこういうときのためにこそあるのだから。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年01月20日(水)13時43分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 21/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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