コラム

まったく無意味なネタニヤフ演説

2009年06月16日(火)00時15分

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イスラエルのバルイラン大学で演説するネタニヤフ首相(6月14日) Baz Ratner-Reuters

 きょう出勤途中の地下鉄の中で、地元タブロイド紙の見出しを読んで少し戸惑った。主見出しが「イスラエル首相、パレスチナ国家を支持」、脇見出しが「パレスチナ人、条件付き提案を拒否」となっていた。

 実際のところ、ネタニヤフ首相の「重要政策演説」から分かることは、彼がとても、とても頭の切れる政治家であるということくらいだ(それも既に分かっていた)。

 領土や難民、入植、エルサレムの帰属問題について何ら譲歩を示さないのに「重要な転換」と解釈されるような演説をするには技術が必要だ。ネタニヤフは、パレスチナ人が絶対に受け入れないと自ら分かっている条件付きでパレスチナ国家を承認すると述べたのである。

 一方で、ニューアメリカ財団中東チームの共同ディレクターであるダニエル・リービーがとても、とても先見の明のある分析家であることも分かった。彼が4月にアメリカのジョージ・ミッチェル中東特使に贈ったアドバイスを読み返してみるといい。その中でリービーは「呪文ゲーム」という名の戦術を説明している。


 これまでのところ、ネタニヤフは2国家共存方式を明確に支持することを拒んでいる。これは巧みに仕掛けられた壮大な煙幕だ。イスラエルの首相が実は2国家共存論者だと主張するための言葉のあやに、国際社会の関心を集中させるための煙幕である。

 先週金曜日、イスラエルのマーリブ紙の見出しは、ネタニヤフがバラク・オバマ米大統領との初会見(5月初めの予定が延期)で劇的な譲歩をし、2国家共存の受け入れを宣言するとさえ示唆していた。何という壮大なまやかし、何という時間の無駄か。

 ヤセル・アラファト元PLO(パレスチナ解放機構)議長は、生前こんなふうに言われていた──重要なのは彼の行動であり、言葉ではない。呪文を唱えることは大して重要ではないのだ。

 ミッチェル一行は、イスラエルが占領をやめて実際に2国家共存方式に踏み出すことを重視すべきだ。ネタニヤフ・ミッチェル会談から生まれたと思われるイスラエルの策略は、まずパレスチナ人がイスラエルをユダヤ人国家として承認せよという要求である(エジプトもヨルダンも、イスラエルと平和条約を結んだ際にそんなことは認めていない)。無意味な陽動作戦だ。


 まさにそのとおりではないか。

──ジョシュア・キーティング


Reprinted with permission from FP Passport, 16/6/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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