コラム

ブラジルと日本に言っておきたい、いくつかの事柄

2014年07月11日(金)17時24分

■もう少し手厚く案内をしてほしい

 ブラジルでは、スタジアムへの行き帰りの案内がほとんどなかった。リオデジャネイロのマラカナンのように、メトロの駅が近くにあるスタジアムはいい。でもそんな便利なスタジアムは、僕が行ったなかではマラカナンだけだった。

 残りのスタジアムは、行くときも自分でバスの発着所などを調べないといけなかった。しかも試合が終わったあと、どこへ行けば何があるのかが、ほとんどわからない。

 最悪だったのは日本の第3戦が行われたクイアバのスタジアムだ。来るときは街の中心部から出ているシャトルバスを使ったので、スタジアムからの帰りもそのバスに乗りたかったのだが、どこから出ているのかまったくわからない。とりあえず人の流れについていき、途中で係員(だと思う)に確認もしたのだけど、乗り場はいっこうにわからない。最後には奇跡的にタクシーがつかまって宿に帰ることができたが、まじめな話、一時は遭難するかと思った。

 けれども考えてみたら、スタジアムからバス乗り場までていねいに案内をしている国など、日本のほかにはなかった気もする。フランスでもドイツでもイングランドでも、人の流れについていって、なんとか移動していた記憶がある。

 こういうときに外国の大ざっぱさが目につくのは、このあたりが日本人の超得意科目だからかもしれない。2002年の日韓共催ワールドカップのとき、イングランドのサポーターの間に「奇跡のバス」という言葉が生まれた。イングランドがデンマークと戦った新潟のシャトルバスを指したものだ。なぜ奇跡と呼ばれたか。それは駅前に並んでいるのが乗客ではなく、バスのほうだったからだ。

 次に日本について。おもにメディア報道の話だ。

■サッカーの成績を「国民性」のせいにするな

 日本に帰ってきて代表が大会を去った翌日の新聞を読んでいたら、やはりこんな文が見つかった。「代表チームはその国の民族性や価値観、文化、社会を映し出す」(6月26日、朝日新聞)。まっとうなことを言っているように聞こえるが、この手の議論は眉つばものだ。

 日本代表が勝てば「持ち前の組織力がものをいった」と称賛し、負ければ「日本人はまだ個の力が足りない」と批判する。日本のメディアはサッカーについて、そんな報道を繰り返してきた。だがこの議論が正しいなら、サッカーの試合に勝っても負けても、その理由は「日本人だから」ということになる。サッカーという複雑なスポーツを語り合う面白さは、そこで立ち消えになってしまう。

 選手が替わり、世代が交代し、監督が(国籍まで)替わっても、サッカー日本代表は日本人の「文化」に縛られるのだろうか。そのときの文化とは、いったい何だろう。

プロフィール

森田浩之

ジャーナリスト、編集者。Newsweek日本版副編集長などを経て、フリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にサイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』、コリン・ジョイス『LONDON CALLING』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story