コラム

ブラジルと日本に言っておきたい、いくつかの事柄

2014年07月11日(金)17時24分

■開催国を「強盗だらけの国」みたいに言わないで

 この連載の初回に書いたが、僕はブラジルに行くことをずいぶん迷った。ブラジルの治安の悪さを伝えるニュースが嫌というほど流れてきたからだ。

 行った当初は相当に緊張していた。テレビで誰かが勧めていたとおり、強盗に囲まれたときに渡してもいい「2つ目の財布」も用意していった。しかし現地に行ってしばらくたつと、ごく普通に注意を払っていれば危険なことには出合わないという感触がつかめてきた。

 もちろん犯罪が多いことは統計にも表れているから、「ブラジルの治安にはなんの心配もいらない」とは言えないだろう。しかし、日本のメディアの報道からイメージされるような「強盗だらけの国」では決してなかった。

 ワールドカップ開催国の治安を問題視する報道ラッシュは4年前の南アフリカ大会でもみられたが、結果的にその国のイメージをゆがめている。こうなってしまうのは、起こったこと(たとえば「殺人が起きた」「デモが起きた」「スタジアム建設が間に合いそうにない」)ばかりを伝え、平穏な日常はあまりニュースにしないというメディアの習性による部分が大きいだろう。起こったことだけを見聞きしていれば、たいていの国は危険な場所に映る。

 しかしもう1つ気になるのは、開催国の治安を問題視する傾向が最近になって強まっていないかということだ。たまたま南アとブラジルだから、こういう報道になったのか。あるいは、もしかすると日本の「ソト」は危ないという意識が強まっていることの表れではないのか。次のロシア大会では、どんなことになるのだろう?

***


 ひとまず僕は「2つ目の財布」を引き出しにしまい、ドイツ─アルゼンチンの決勝をテレビ観戦することにします。午前4時のキックオフも苦になりません。まだ体はブラジル時間で動いていますから。

プロフィール

森田浩之

ジャーナリスト、編集者。Newsweek日本版副編集長などを経て、フリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にサイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』、コリン・ジョイス『LONDON CALLING』など。

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