コラム

スピーチとスカートはやっぱり短いほうがいい

2013年05月14日(火)11時06分

今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ

[4月30日・5月7日号掲載]

 日本人はセレモニーと定番のスピーチが大好きらしい。結婚式はもちろん、マージャンの最後も誰かのスピーチで締める。私は最近まで、そうしたセレモニーは良く言えば不思議で異国的、悪く言えば必要ないし落ち着かないと思っていた。

 この春、わが家では子供2人が進学したため、計4回セレモニーに出席した。私自身は入学式の経験はなく、卒業式も1回しか出なかった(出席したのは好きな女の子に誘われたからだ)。

 ヨーロッパ人の私からすれば、セレモニーの旗と花飾りと制服とスピーチは、アメリカ的でわざとらしく思える。日本では毎年4月に入社式が行われ、新入社員が全員ほぼ同じスーツ姿で整列する。異様なだけでなく、軍隊を思わせる不穏な光景だ。

 さらに、日本のスピーチは決まり文句があまりに多い。季節の挨拶は詩的で魅力的だが、学生や新入社員を前にしたスピーチでおなじみの、古臭い資本主義的なレトリックにはうんざりさせられる。

 学生に向けたスピーチで特に多い話題は、スポーツ選手のハングリー精神や、イチローのようなアスリートが雨の日も晴れの日も休まず練習して成功した話。野球選手には役立つかもしれないが、2次方程式や同級生との複雑な人間関係に悩む子供たちには、あまり意味がないだろう。

 今春の東京大学の卒業式で、学生が居眠りをしたり携帯電話をいじったりしていたことが話題になった。「タフ」と「グローバル」が何回も登場した総長のスピーチに、多くの卒業生が感動しなかったのは不思議ではない。「グローバル」を繰り返すのは、島国的な発想でもある。卒業生の大半にとって、グローバル化はもはや当たり前だというのに。

 実際、スピーチの最中に「グローバル」と「タフ」を織り交ぜたツイートを投稿した学生たちは、まさにグローバルだ。マルチタスクをこなし(スピーチを聞きながらツイートする)、スピーチを評価して批判し(決まり文句を黙って受け入れない)、意見を表明して批判されるリスクを冒すというタフさもある。

■はなむけの言葉は前向きに

 若者へのスピーチでは、ハングリー精神や苦悩など、時代遅れのマゾヒズムは控えめにしてはどうか。誠実さ、思いやり、率直さ、創造性、協力など、前向きな理想を聞きたいものだ。

 実は、私は息子の小学校の卒業式で、PTA代表として「お礼の言葉」を述べなければならなかった。最初は気が進まず、スピーチにありがちな空虚なレトリックに否定的な印象しかなかった。でも、あらためて考えると、セレモニーにも価値があることに気付かされた。

 東日本大震災が起きたとき、私はたまたま息子の学校にいた。卒業式は、大変なときに努力してくれた学校にお礼を言う格好の機会でもある。そのようなスピーチをさせてもらえることは、喜びであり名誉ではないか。

 英語には「スピーチとスカートは短いほどいい」という言葉がある(私にはスコットランドの愛国主義者でキルトを着用しているおじがいるので、必ずしも賛成ではないのだが)。しかし心理学者によると、退屈は子供の創造性を伸ばすのに役に立つという。長いセレモニーの間おとなしく座っていることも、彼らのためになるのかもしれない。

 それに、東大は日本の最高峰のエリート養成機関だ。スピーチの最中に、携帯電話で癌の治療法の特許について調べていたのかもしれないし、夢の中で数学の公式を考えていたのかもしれない。ドイツの化学者ケクレは、ヘビの夢を見てベンゼンの化学的構造を思いついた。

 私は最近、セレモニーとスピーチが好きになってきた。短いスピーチでその意義を訴えてみようか。会場の後ろで居眠りする人がいないといいのだが。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イエメン分離派指導者が出国、UAEが手助けとサウジ

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ監視の長期化を示唆 NYタイ

ビジネス

英企業、向こう1年の賃金上昇予想3.7% 若干緩和

ビジネス

金、今年前半に5000ドル到達も 変動大きい年とH
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 6
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 7
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 8
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 9
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story