コラム

まだまだ視界不良な日中関係改善の切り札は

2013年03月25日(月)07時24分

今週のコラムニスト:李小牧

〔3月19日号掲載〕

 日本政府による尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化で、わが祖国と第2の祖国が抗争状態になって半年がたった。日本を訪れる中国人観光客は大きく減ったままで、先日の春節(旧正月)の休暇で家族と訪れた沖縄でも目立つのは台湾や香港、東南アジアの旅行客ばかりだった。

 さすがの歌舞伎町もすっかり閑古鳥が鳴いている──と読者の皆さんは思うかもしれないが、実はそうでもない。最近日本人の酔客が増えたのはアベノミクス効果だろうが、中国人の、特に文化人というべき人々も春節休暇中に相次いでこっそり日本、そしてわが歌舞伎町を訪れていた。

 1人は中国のマイクロブログのに1000万人のフォロワーを持つCCTVキャスター。ほかにも中国を代表するネット企業の副総裁や、圧倒的な視聴率を誇る地方テレビ局の人気司会者、さらに地方テレビ局トップがお忍びで日本を訪れていた。中には歯を治療しに来た有名俳優もいた。

 いや、「こっそり」というのは正確ではない。1人は日本に着いた後、自分の微博アカウントで「遠い『雪国』にいる」と書き込んだ。もともと彼と友人だった私は、この書き込みだけで「日本に来ているな」とぴんときた。「雪国」と聞けば、中国人は日本の演歌「雪国」を連想する。案の定、彼は北海道にいた。

 彼らが自由に発言できないのは、すべて尖閣問題ゆえ。ブログなどに「日本に行った! 楽しかった!」などと気楽に書き込もうものなら、即座に「漢奸(売国奴)」呼ばわりされて、社会的に抹殺されかねない。

■底堅い中国人の「日本ニーズ」

 それでも彼らが日本に「密航」するのは、日本が中国から最も近い、空気がきれいな先進国だから。彼らは大気汚染物質のPM2・5に嫌気が差して、日本に脱出してきたのだ。

 もちろん、今や殺人的と言っていい中国都市部のスモッグから逃れるためだけに日本にやって来たわけではない。領土問題で対立しているとはいえ、中国人の「日本ニーズ」は根強い。

 実際、あのおカタい人民日報が主催する中国人ネットユーザーとのオンライン交流会に参加したら、日本のAV女優についての質問をたくさん受けた(笑)。中国の知識人たちが日本に来るのは、日本のサービスや文化の価値を認めているから。ネットで反日を叫ぶ庶民だって、本音では富士山を見て温泉につかり、東洋一の歓楽街であるわが歌舞伎町で遊びたいと思っている。

 領土問題でもめているとはいえ、中国の存在が必要なのは日本人も同じはずだ。東京の公園で毎朝、太極拳に汗を流すお年寄りを見ればいい。

 それなのに、両国の政治家は対立をあおる発言を繰り返している。先日、安倍晋三首相がワシントン・ポスト紙に「中国の反日の根は深い」と発言して、中国メディアにかみつかれた。安倍首相側は記事が正確でないと反論したようだが、この時期に誤解を招く発言をすること自体が間違っている。

 中国側も、日本の週刊誌が報じた「中国の監視船が日本漁船に機関銃を向けた」という真偽不明の記事に外交部(外務省)がわざわざ時間を割いて反論した。まったくどうしようもない悪循環だ。

 先日、中国からレンタルされている上野動物園のパンダ2頭がこれから繁殖期に入るというニュースが流れた。去年は「ベッドシーン」が全国にテレビ放送され話題になったが、生まれた赤ちゃんは生後1週間で死んでしまった。

 2頭には今年こそ「性交」に「成功」して、かわいいパンダの赤ちゃんを日本人に見せてほしい。それをきっかけに、両国民の嫌悪感は徐々に和らいでいく。

 パンダの「夜の手ほどき」にぜひ協力したいところだが......これは動物園の飼育員にお任せしておく(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

7月企業向けサービス価格、前年比2.9%上昇 前月

ワールド

米政権、EUデジタルサービス法関係当局者に制裁検討

ワールド

米商務省、前政権の半導体研究資金最大74億ドルを傘

ビジネス

低水準の中立金利、データが継続示唆=NY連銀総裁
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story