コラム

政策仕分けは増税のための見世物なのか

2011年12月01日(木)19時33分

 古代ローマでは、皇帝が人々の不満を抑えるためにパンを支給し、それが行き渡ると競技場で決闘などの見世物を開催したという。ローマの詩人、ユウェナリスはこう書いた。

  かつては政治と軍事の全てにおいて権威の源泉だった民衆は、
  今では一心不乱に、もっぱら二つのものだけを熱心に求めるようになっている
  すなわちパンと見世物を・・・

 民主党政権の行政改革の目玉だった「提言型政策仕分け」の目的も歳出削減ではなく、無駄づかいしている官僚をたたく見世物を提供することだったのだろうか。

 11月21日に行なわれた仕分けでは、民主党の仙谷由人政調会長代行が登場し、懸案になっていた周波数オークションについて「時間がない」と実施を渋る総務省を「時間がないなどというのは理由にならない。オークションについては民主党も10年前から言っており、国会にそのむね説明すれば夏まで待たなくてもいい」と一喝した。

「影の総理」ともいわれる仙谷氏が語気を強めてオークションの早期導入を求め、総務省は何も反論できなかったことで、勝負はあったと思われた。ところが今日になって川端達夫総務相は、国会で「関係業界も割り当てに向けた準備を進めている。総務省としては、既定方針どおり粛々と手続きを進めたい」と答弁し、焦点となっている900MHz帯のオークションを行なわない方針を明らかにした。

 先週の仕分けのあと、総務省と関係業界の動きは急だった。桜井俊総合通信基盤局長みずから与野党を回って反対運動を展開し、ソフトバンクの孫正義社長は総務省に乗り込んで反対の陳情を行ない、松崎公昭副大臣は「孫社長と認識は一致した」と答えた。陳情に対して、政務三役がその場でOKを出すのは異例である。この面会は総務省がお膳立てしたものだろう。行政刷新会議で決めたことを総務相と副大臣が公然とくつがえすのは、閣内不一致である。いったい民主党政権の命令系統はどうなっているのか。

 来年2月に電波を割り当てられるのはソフトバンクモバイルに内定しており、同社はすでにそれを当てにして1兆円以上の先行投資を行なっている。免許がおりる前から免許を前提に設備投資をするのは、「公正な審査」などという総務省の建て前が空文化していることを示している。「関係業界も割り当てに向けた準備を進めている」という川端総務相の発言は、官民談合を認めるものだ。野党時代に民主党がオークションの実施を求める電波法改正案を出したとき、その提案者だった川端氏は何を考えているのだろうか。

「時間がない」などというのは、へたな言い逃れだ。来年割り当てても、すぐ使えるのは上り3MHzと下り5MHzだけで、残りは2015年あるいは2018年にならないと使えない。オークションをするための電波法改正は「電波は競売で割り当てる」という1項目を付け加えるだけなので、仙谷氏もいうように次の通常国会で成立させることができる。ソフトバンクがどうしてもほしいなら、堂々とオークションに参加して落札すればいいのだ。

 財政危機が深刻化する中で、オークションで見込まれる1兆円以上の国庫収入は貴重な財源である。総務省はそれを安値でソフトバンクに割り当て、その資金を「移動無線センター」に提供しようとしている。この団体はMCA無線という業務用無線を運営しているが、仙谷氏も追及したように、その理事6人のうち3人の常勤理事は(理事長を含めて)すべて総務省の天下りだ。総務省がオークションを拒否するのは、競売収入は一般会計に入り、天下り団体に渡すことができないからなのだ。

 政策仕分けが、コロシアムの決闘よろしく仙谷氏が官僚をどやしつけ、「こんなに無駄の削減に努力してるんだから消費税を上げてくれ」と言うための見世物だったとすれば、納税者をバカにした話である。パンと見世物で買収されたローマの民衆は政治への関心を失い、自分で国を守る気概をなくしてローマは衰退に向かった。日本もその後を追うのだろうか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の証取、優良上場企業のリファイナンス支援 審査

ビジネス

欧州、ユーロの国際的役割拡大に備えを=オーストリア

ワールド

キューバの燃料事情は「危機的」とロシア、米の締め付

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、2月は予想上回る改善 25年7
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story