コラム

月面着陸成功「SLIM」が復活! 月の謎を解明する「エクストラサクセス」達成に期待膨らむ

2024年01月30日(火)14時45分

SLIMには縦29.7センチ、横27.1センチ、厚さ0.25ミリのシート状の太陽電池が26枚搭載されています。総出力は約540ワットで、従来のものと比べて約5分の1に軽量化されているため総重量は約1.07キロに抑えられています。

開発を担ったのは、日本の電気機器メーカーのシャープです。宇宙空間でのミッションのため曲げても割れない柔軟性と衝撃への強さを併せ持ち、マイナス198度からプラス160度まで耐えられる太陽電池を作製したといいます。同社は電源復旧を受け、「歴史的な成功の一助となれたことを大変光栄に思う」とのコメントを発表しました。

JAXAは月面着陸ミッションについて、事前に達成度に応じて「ミニマムサクセス」「フルサクセス」「エクストラサクセス」の3段階に分け、それぞれに1~4つの目標項目を設けていました。

「ミニマムサクセス」では画像照合航法の開発と検証、「フルサクセス」では目標地点から100メートル以内のピンポイント着陸を実施し、着陸後も探査機が機能を維持することなどが掲げられており、「エクストラサクセス」では、SLIMの月面着陸後、日没までの一定期間、ミッションを行うことが達成目標となっていました。ですから電力復旧後、月の起源を探る調査が一定期間できれば、エクストラサクセスの達成となります。

 「フルサクセス」までの目標項目はJAXA自身が他の機関や企業と行うミッション、「エクストラサクセス」の目標項目は科学者に研究機会を与えるミッションとも言えます。エクストラサクセスを達成すれば、宇宙工学だけでなく惑星科学にも大きく寄与します。

今後は、画像によるカンラン岩の成分解析や、SLIMがどうやって太陽電池を横向きにした姿勢になったかの解明などが進められていきます。まだまだ月面着陸関係のニュースから目が離せませんね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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