コラム

127℃、大気圧下で超伝導が成功? 超伝導研究の成果が「もし本当なら画期的」と疑ってかかられる理由

2023年08月02日(水)23時00分
LK-99

磁気浮上しているLK-99 By Hyun-Tak Kim, CC BY 4.0

<韓国の研究チームが「常温常圧での超伝導に成功した」と発表し、世界をざわつかせているが、科学界は当初懐疑的な反応を示した。背景には、この分野で過去に取り沙汰されてきた数々のスキャンダルがある。これまでの経緯と超伝導に関する論文捏造について概観する>

今年の夏は記録的な猛暑が続き、熱中症予防のために夜になってもクーラーが手放せない状況です。けれど、8月に多くの大手電力会社が値下げするものの電気料金は記録的な高値を維持しており、私たちは否が応でも「エネルギー問題」を考えざるを得なくなっています。

日本はエネルギー消費大国ですが、エネルギー自給率は先進国中で最低レベルの1割程度なので、電気を作り出す燃料(エネルギー資源)の海外事情にもろに影響を受けてしまいます。

最近の電気代の値上がりは、天然ガスや石炭といった化石燃料価格の高騰によります。①ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシア産エネルギー資源の禁輸措置、②地球規模の新型コロナウイルス感染症の蔓延で鉱業や経済の停滞が起こり化石燃料の需給バランスが壊れた、③新興国のエネルギー需要の高まった、ことなどが原因とされています。

もっとも、日本は高い科学技術力で、発電所から家庭に電気を運ぶ時に失われるエネルギー(送電ロス)を抑えています。とはいえ、日本の世界最低水準のロス率(約5%)をもってしても、年間400億キロワット時以上(火力発電所7基分)の電力が送電中に失われています。送電ロスをさらにカットできれば、節電に大きく貢献できるのです。

韓国チームの研究発表に科学界は懐疑的「本当だったら画期的」

韓国の量子エネルギー研究センター(Q-centre)の研究チームは先月22日、理論上、送電中のエネルギーロスをゼロにできる「常温常圧での超伝導に成功した」と発表し、話題を集めています。査読前の学術論文が投稿できる「arXiv(アーカイヴ)」に2本の論文が公開されると、すぐに世界で最も有名な学術誌の1つである「Science」のウェブページに、有機化学者のデレク・ロウ博士による解説記事が投稿されました。

ただし、このニュースはすぐに各所で取り上げられたものの、ほとんどが「もし本当だったら、画期的だけれど......」と冷静でやや懐疑的な論調でした。ロウ博士も「この新しい研究報告は、すぐに正当化されるか崩壊するかのどちらか」と推測し、「成果が研究者の主張どおりであることを、本当に、本当に願っています。まさに世界を変える発見で、(事実であれば)即座にノーベル賞を受賞することになるでしょう」と、心中を吐露しています。

常温常圧での超伝導の成功は、なぜ疑いの目を向けられるのでしょうか。これまでの経緯と超伝導に関する論文捏造について概観しましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story