コラム

偶然ではない? 「男兄弟のみの家庭では次に生まれる子も男の可能性が高い」という調査結果

2023年07月26日(水)16時05分
戯れる兄弟

出生時の性比は、わずかに男児の方が多いことが知られている(写真はイメージです) didesign021-iStock

<男女が生まれる確率はほぼ1:1のはずだが、男児の妊娠・出産が続くほど次の妊娠機会にも男の子が生まれる可能性が高くなるという調査結果が発表された。では、女児の場合は? 最新の男女産み分けについても概観する>

伝統芸能や一部の職業、旧家の後継では、現代においても男子のみ、あるいは女子のみが継承できるとする家系があります。また、特別な家系でなくても、妊娠後に赤ちゃんの性別について家族や周囲の期待を重く感じる女性は少なくありません。

かつては「後継ぎのために男子が多く生まれる家の嫁をもらう」などの考えも珍しくなかったといいます。では、男子が生まれやすい家というのは本当にあるのでしょうか。

浜松医科大の宗修平特任講師らと国立環境研の研究チームは、男兄弟のみの家庭と女姉妹のみの家庭を比べて、次に生まれてくる子どもの性比に違いはあるのかを調査しました。

その結果、母親が過去に連続して男児のみを妊娠・出産している場合は、連続して女児のみを妊娠・出産している場合よりも、次の妊娠機会で男児を妊娠・出産する確率が高いことが分かりました。研究の詳細は、オープンアクセスの国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。

ヒトでは男女が生まれる確率は、ほぼ1:1のはずです。今回の調査では、男児が続く割合は、どの程度「偶然ではない」と言えたのでしょうか。女児の場合も同じ結果だったのでしょうか。最新の男女産み分けについても概観しましょう。

受精卵の段階と出生時で男女の割合は異なる

環境省は、2010年度から全国の約10万組の親子を対象として、大規模かつ長期間の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を行っています。

この調査は、もともとは胎児期から小児期にかけての化学物質の曝露(ばくろ)が、いかに子どもの健康に与えるのかを明らかにするために始められました。臍帯血(さいたいけつ)、血液、尿、母乳、乳歯などを採取して分析するとともに追跡調査をして、子どもの健康と化学物質などの環境要因との関係を研究しています。

今回の研究は、エコチル調査で収集されたデータのうち、生まれてくる子どもの性別と、兄弟姉妹の性別を利用して行いました。

子どもの男女の割合は、受精卵の段階と出生時では異なります。受精卵では、卵子にX染色体を運ぶ精子が受精すると女児、Y染色体を運ぶ精子が受精すると男児になります。このときの性比(女児に対する男児の割合)は、一次性比と呼ばれます。

受精卵は着床後の妊娠期間中に流産や死産したり、人工中絶したりすることがあります。そこで、出生時の性比は一次性比と区別して、二次性比と呼ばれています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

10月完全失業率は2.6%で前月と同水準、有効求人

ワールド

クーデター発生のギニアビサウ、エンタ将軍が暫定大統

ワールド

米銃撃事件の容疑者、アフガンでCIAに協力 移民審

ワールド

独首相、G20首脳会議から南ア排除のトランプ氏に方
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story