コラム

偶然ではない? 「男兄弟のみの家庭では次に生まれる子も男の可能性が高い」という調査結果

2023年07月26日(水)16時05分

ヒトの二次性比は、わずかに男児の方が多いことが知られています。ヒトの一次性比は女児を1とすると男児は1.1〜1.7程度という報告がありますが、二次性比は地域や時代を問わずにほぼ1.05と安定しています。

二次性比は、両親が若いほど、出生順位が早いほど男児の割合が増えるという研究があります。もっとも、母体への強度のストレスや性ホルモン剤の使用、性交の頻度やタイミングなどとも関連性が指摘されており、要素は複雑に絡むようです。実際に、妊娠初期に東日本大震災を体験した母親から生まれた子どもは、男児の割合が減少したというデータもあります。

男児が続くほど、次回も男児を妊娠する可能性が高くなる傾向

今回、研究者たちは、エコチル調査参加者104,062名のうち、過去に妊娠した子どもの性別が不明もしくは記載されていないことが多い流産、死産、中絶などを経験したことがある女性を除外した62,718名を対象に調査を行いました。

対象者のうち、今回が初産(第1子)であった場合の子どもの二次性比は1.055と、これまでの報告の1.05に近いものでした。一方、第1子が男児であった場合の第2子の二次性比は1.068、女児だった場合は1.039でした。これは、1.05を基準に考えると、第1子と同じ性別の子どもが生まれる傾向がわずかに見られたと言えます。

加えて、第3子以降でエコチル調査に参加した女性に着目すると、過去に連続して男児のみを妊娠・出産している場合の子どもの二次性比は1.112、同じく女児のみを妊娠・出産している場合の子どもの二次性比は0.972となりました。つまり、第2子の場合よりも、基準となる1.05に対してさらに大きな偏りが見られました。

これを統計処理すると、過去に連続して男児を妊娠・出産している場合は、連続して女児を妊娠・出産している場合よりも、次が男児になる確率が約7%高いという結果となりました。この数値は、偶然とは考えにくく、何かしらの要因の結果として引き起こされたと考えられます。

さらに詳細を見てみると、「第1子が男、第2子が男(【男男】)」の場合、次の第3子の二次性比は1.100であるのに対し、【男男男】の次の第4子では1.169、【男男男男】の次の第5子では1.750と、男児がより多く連続している状況になればなるほど、次回も男児を妊娠する可能性が高くなっていく傾向が認められました。

同様に、【女女】の次の子どもの二次性比は0.987、【女女女】の次は0.824、【女女女女】の次は0.750と、女児がより多く連続している場合でも、次が女児を妊娠する可能性が高くなる傾向がありました。

偏りのメカニズム、両親どちらに起因するものかなど未解明

今回の調査では、過去に連続した「男児のみ」もしくは「女児のみ」の妊娠経験がある場合は、次の妊娠機会で生まれる子どもの性別も兄弟、姉妹と同じ性別に偏りやすいことが示唆されました。ただし、偏りのメカニズムや両親のどちらに起因するものなのかなどは解明されておらず、今後の研究を待つことになります。

関連しそうな要因としては、遺伝的な体質や環境要因によって膣内環境が酸性、あるいはアルカリ性に傾きやすい母親であることなどが考えられるでしょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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