コラム

偶然ではない? 「男兄弟のみの家庭では次に生まれる子も男の可能性が高い」という調査結果

2023年07月26日(水)16時05分

実際に使われている代表的な男女産み分け法には、男児になるためのY染色体を持つY精子と、女児になるためのX染色体を持つX精子の活動しやすい水素イオン濃度(PH)が違うことを使って、腟内の酸性、アルカリ性をコントロールするものがあります。

X精子は寿命が2〜3日と比較的長く、酸性の環境に強いのに対して、Y精子は寿命が1日と短く、アルカリ性の環境に強いとされています。そこで、①産み分けゼリーを使って、腟内を酸性あるいはアルカリ性にする、②腟内は、通常は酸性で排卵日が近くなるとアルカリ性に傾くことを利用して、タイミングを見計らって性交をする、などの方法が編み出されました。もっとも、これらの方法の産み分けの成功率は50~60%程度という報告もあり、確実ではありません。

男女産み分けをするために酸性やアルカリ性の食物を摂っても、①食事で人間の体液が酸性やアルカリ性に傾くのは一時的であること、②人には体内のPHを一定に保とうとする働きがあることより、女性の膣内の水素イオン濃度を食事内容で調整することは難しいと考えられています。

しかし、食事による産み分けは近年も盛んに研究されており、たとえば、英エクセター大の研究チームは08年、初産婦の食生活のデータから、妊娠期間中にカロリーをより多く摂っていたグループやミネラルを幅広く摂取していたグループでは男児が多い、などの研究成果を発表しています。

ほぼ100%可能な方法は着床前診断だけ

さらに、化学物質の曝露による二次性比への影響の研究も進んでいます。これまでに、水俣病の原因となったメチル水銀が母親の体内に取り込まれたり、ダイオキシンが父親の体内に取り込まれたりすることで、出生時の男児の割合が減少したことが報告されています。

男女産み分けを望むケースには、性染色体上にある遺伝子異常による遺伝病を防ぎたい場合もあります。たとえばX染色体に病気を引き起こす遺伝子がある場合、女子は性染色体がXXなので、正常なX染色体の遺伝子に補われるために基本的に発症しませんが、男子はXYなので補えずに発症してしまいます。

現在、男女産み分けがほぼ100%可能な方法は、着床前診断だけとされています。これは体外受精で受精卵を作り、ある程度成長したら子宮に移植する前に一部を採取して染色体の本数や構造に異常がないかを調べる検査です。性染色体の種類も分かるので、希望する性の受精卵だけを子宮に戻すことも理論上は可能です。ただし日本では一般的な検査ではなく、受精卵を操作するリスクや異常が見つかった場合の取り扱いなど、倫理面の議論が慎重に勧められています。

男ばかりの兄弟、女ばかりの姉妹を持つ家庭の謎の解明が進めば、健康面や倫理面に対してより安全で安心な男女産み分けの研究につながるかもしれません。

ニューズウィーク日本版 教養としてのミュージカル入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月17号(3月10日発売)は「教養としてのミュージカル入門」特集。社会と時代を鮮烈に描き出すポリティカルな作品の魅力[PLUS]山崎育三郎ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ゴールドマン、米利下げ時期予想後ずれ 中東紛争に伴

ビジネス

午後3時のドルは159円近辺、一時2カ月ぶり高値 

ワールド

中国、精製燃料輸出を禁止 中東情勢受け国内供給優先

ワールド

南ア、複雑な規制環境が成長と雇用を阻害=IMF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 8
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story