コラム

7月4日の地球は「過去12万5000年間で一番暑い日だった」と専門家 「12万5000年」の根拠は?

2023年07月11日(火)20時50分

今回の「世界平均気温の最高記録達成」は、米国立環境予測センターが衛星データを含めて全地球の観測を記録し始めた1979年以降で最高気温であることは間違いありません。世界の大半の国は、19世紀から20世紀にかけて国立の気象観測機関を発足させて、自国の気象データを精密に計測し、公表するようになりました。それらと照らし合わせれば、「過去100年では地球の最高気温」と言いきることはできるかもしれません。

では、それ以前と比べて、まして過去12万5000年間で過去最高気温であると研究者が示唆するのは、どんな根拠に基づいているのでしょうか。

同センターの研究者らは、北半球が夏季であることに加えて、①気候変動と、②エルニーニョの発生によって、地球の最高気温が更新されたと考えています。

気候変動には、「氷期と間氷期の長期サイクル」と「人類の活動によって温室効果ガスの排出が進んだ」という2つの意味合いを含みます。

温度計の発明以前の気温は、冷夏や干ばつといった歴史的な記録と照らし合わせながら、年輪や氷床コア、酸素同位体比などによって推定されます。

過去2000年くらいまでの気候変動は、樹木の年輪の幅で推定できます。年輪は1年に一つずつ増え、気温が高い年は幅が広くなり、低い年は狭くなります。氷床コアは、南極やグリーンランドの氷床や氷河を掘削した氷の試料です。一般に下に行くほど古くなっており、当時の大気成分や火山灰、放射性物質を含んでいるため、過去80万年くらいまでの気候や環境の研究に用いられます。

今は比較的温暖な間氷期

地球では、約80万年前からおよそ10万年周期で氷期と間氷期が繰り返されていることが、海洋堆積物や氷床コアの酸素同位体比の分析で確認されています。酸素同位体比とは重い酸素(酸素18)と軽い酸素(酸素16)の割合のことで、寒冷期には重い酸素は氷床と比べて海水により含まれやすくなるため、気温を推定することができます。

現在は、気候が比較的温暖な間氷期にあたると考えられており、約1万年前に最後の氷期が終わりを迎えるとともに始まりました。約10万年間続いた最後の氷期の間は、地球全体の温度は現在の温度を超えたとは考えられず、1つ前の間氷期の気候最適期(気候が最も温暖な時期。以後、氷期にむけて気温は下がる)は約13万年前から11万年前と試算されています。「過去12万5000年間で最高気温」という表現は、「1つ前の間氷期の暖かい時期のピーク」をもとに算出されたと考えられます。

さらに現在は、森林伐採や産業革命後の温室効果ガスの増加により、世界平均気温は上がり続けています。現在は産業革命前よりも1.25℃上がり、とくにこの10年は0.25℃の急上昇を遂げています。

2015年に採択された「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を「産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という目標が掲げられました。しかし、世界気象機関は23年5月に「66%の確率で27年までに1.5℃を超える見込み」との試算を発表し、懸念を示しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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