コラム

7月4日の地球は「過去12万5000年間で一番暑い日だった」と専門家 「12万5000年」の根拠は?

2023年07月11日(火)20時50分

次に、エルニーニョの影響について見てみましょう。

エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年よりも高くなり、その状態が1年程度続く現象です。エルニーニョが発生すると、世界中の気象に影響を及ぼし、地域によって干ばつや豪雨など様々な異常気象を引き起こします。地球全体では記録的な猛暑になりやすいと言われています。

エルニーニョの発生は世界中で監視されており、日本の気象庁も6月9日、4年ぶりにエルニーニョが発生したと発表しました。気象庁が基準として用いている監視海域の海面水温の上昇は0.5℃以上ですが、23年は2℃以上上昇する「スーパーエルニーニョ」まで発達する見込みといい、警戒を強めています。

ところで、エルニーニョが発生すると、日本では冷夏と暖冬になりやすいと言われています。しかし、①エルニーニョの発生から気象・気候に影響を与えるまではタイムラグがあること、②暑い夏、寒い冬をもたらす傾向がある「ラニーニャ現象」が23年春まで続いたことから、今年の日本の夏は暑いと予想されています。

地球の適温は何度なのか

今回の「地球史上、最も暑い日」の記録を受けて、専門家たちは「温室効果ガスの排出量抑制に迅速に取り組まないと、今後も最高気温が塗り替え続けられるだろう」と警告しています。

一方、人類の発展に伴って急ペースで温室効果ガスが増えたことについて、悪いことばかりではないと考える人たちもいます。たとえば、多くの植物の発育適温は、現在の平均温度よりもやや高いとするデータがあります。

独ポツダム気候影響研究所の研究チームは、「人類が大気に排出してきた温室効果ガスによって、次の氷河期の開始が5万年以上後ろ倒しになったかもしれない」とする論文を、16年に科学総合誌「ネイチャー」に発表しました。

同研究所のアンドレイ・ガノポルスキ博士は「地球の公転軌道などから算出すると、本来は200年前に氷河期に突入するはずだった。当時、大気中の二酸化炭素濃度が240ppmだったならば氷河期は開始したかもしれないが、産業革命以前でも人類が森林伐採をしたことなどによって280ppmになっていた」と説明します。英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのクリス・ラプリー教授は、この研究成果を受けて「人類の行動が惑星の新陳代謝そのものを左右する、新しい時代に入った証拠だ」と語っています。

地球の適温は果たして何度なのでしょうか。「現在だけを見るのか、未来まで見据えるのか」「人類が惑星を変えることをどこまで許容するのか」で答えは変わるのかもしれませんね。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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