コラム

熱傷に神経麻痺、視力障害も... 人気美容メニュー「HIFU」の事故増加と装置の開発史

2023年04月04日(火)12時15分
HIFU施術

90年代から医療的に注目を集めるようになり、21世紀になって美容医療に登場(写真はイメージです) MBLifestyle-shutterstock

<美容効果が期待されると人気を集める反面、後遺症被害も報告されている「HIFU施術」。その危険性とは? 美容医療とエステの線引き、開発の経緯とともに紹介する>

使用すると小顔になったりシワやたるみを取ったりする美容効果が期待できると人気の「HIFU(ハイフ)施術」で後遺症被害が相次いでいることを受け、国の消費者安全調査委員会(消費者事故調)は3月末に報告書をまとめました。

HIFUはHigh Intensity Focused Ultrasoundの略称で、「高密度焦点式超音波」の意味です。日本では1990年代よりがんの治療など医療で使用されてきましたが、超音波を照射して筋膜を加熱すると引き締め効果が見込めるとうたわれて、近年は美容目的での利用が広がっています。

消費者事故調の報告書によると、HIFU施術の事故は2015年に初めて事故情報データバンクに登録されて以来、22年までに135件発生しました。顔の事故が 70%を占め、1カ月以上完治しない熱傷や神経の麻痺、視力障害などの深刻な被害もあります。特に21年以降は2年間で74件と急増しています。

美容目的のHIFU 施術には、美容クリニックで医師が実施するもの、エステティックサロン(エステ)でエステティシャンが取り扱うもののほか、店舗に置かれたHIFU機器を借りて利⽤者本人が利用するセルフエステなどがあります。

HIFU施術は医師以外が行っても良いのでしょうか。そもそも、どのような経緯でこの機器は開発されたのでしょうか。美容医療とエステの線引きやHIFUの開発史について深掘りしてみましょう。

法規制も安全基準もなし

今回の報告書では、HIFU施術による事故の発生場所が、美容クリニックの23%に対して、エステは71%であったことが特に問題視されています。

エステは、美顔、痩身、脱毛など全身美容に関するサービスを提供する施設です。02年に総務省が定めた「日本標準産業分類」では、「手技又は化粧品・機器等を用いて、人の皮膚を美化し、体型を整える等の指導又は施術を行う事業所をいう」と定められています。

医療機関である美容クリニックとエステは似た目的の施術をする場合がありますが、通常はできる範囲に明確な線引きがあります。たとえば痩身を目的とした脂肪吸引手術は医療機関しかできませんし、脱毛の場合でもエステでは高出力のレーザー装置の使用が規制されています。

対して、HIFUは施術や機器に関する法規制はなく、厚生労働省などによって定められた安全基準もありません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story