コラム

ヒトを襲い、弱い個体をいじめる 「優等生」イルカの知られざる一面

2022年10月04日(火)11時25分

世界初のイルカショーは、1952年に米フロリダのマリン・スタジオで行われたものとされています。38年に開設されたマリン・スタジオは、それまでは種の保存といった学術的な意義の強かった水族館にエンターテインメントの要素を持ち込みました。

同所ではサメのような大型魚やカツオなどの回遊魚の飼育も行われ、餌付けショーなどが人気を博していました。ドイツからトレーナーを呼んでイルカのフリッピーに芸を覚えさせたショーは大人気のアトラクションとなり、世界中の水族館に広がります。

日本では30年代から、静岡県の中之島水族館(現在の伊豆・三津シーパラダイス)などでクジラ類が飼育されていました。日本初のイルカショーは、57年に神奈川県の江ノ島マリンランド(現在の新江ノ島水族館)で行われました。当時から、今もショーでおなじみのハンドウイルカやハナゴンドウが活躍していたそうです。

ホエール(ドルフィン)・ウォッチングは、野生のクジラやイルカを野外観察するイベントです。50年に米カリフォルニア州でコククジラを観察するための観光船が現れたのが始まりとされています。80年代から世界中に広まり、現在は日本でも北海道から沖縄までの約半数の都道府県で行われています。

軍事利用の歴史

米海軍では、60年代から軍事目的でのイルカの利用が研究されてきました。イルカは濁った水の中でも目標物を感知する能力があるため、海中の紛失物を発見して回収したり機雷を探知したりすることに利用されます。さらに、自軍の制限領域に海中から忍び込もうとする侵入者を見つけることもできます。米軍は、湾岸戦争(91年)やイラク戦争(03~11年)で、訓練したイルカを実戦投入しました。

ロシア海軍は90年代に、イルカの軍用計画を一時停止しました。けれど、10年代になって再開し、14年のクリミア危機ではウクライナ軍の軍用イルカを接収しました。イルカたちは、水中の機雷や侵入者を発見して目印を付けるように訓練されていたと言います。

米海軍協会は本年2月の衛星写真の分析から、ロシア黒海艦隊の拠点であるセバストポリ港にイルカ用の囲いが設置されたことを確認しました。ウクライナ侵攻の開始時期とほぼ同時であるため、港や艦船に爆発物を設置するために海中から潜入するウクライナの特殊部隊を探知するための軍用イルカと見られています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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