コラム

生魚の寄生虫アニサキス、古今東西の日本に見る予防対策

2022年07月05日(火)11時30分
激しい腹痛を引き起こす「アニサキス症」

酢や塩漬けでもダメ。醤油やわさびを付けても幼虫は死滅せず、シメサバに調理しても予防にはならない(写真はイメージです) y-studio-iStock

<日本の食中毒の原因として最も多いアニサキス。効果的な治療薬はないというが、どう予防・対策すればいいのか? 古くからの食文化、最新の研究成果に学ぶ>

食欲が落ちる夏季に食べる魚介類は、刺身やイカそうめんなど喉越しのよい清涼感のあるものが人気です。けれど生食は、適切な処理を施さないと食中毒を起こす場合があります。

最近、元AKB48の板野友美さんが罹患してニュースになった「アニサキス症」も、サバ、イカ、カツオなどに見られる寄生虫が原因の食中毒です。アニサキスの生活環や食中毒を起こさないための知識、最新の研究事情を紹介します。

日本近海だけで約160種の魚介類に寄生

板野さんは先月26日、YouTubeに「激痛に襲われ緊急で病院に行くことになりました」と題した動画を投稿しました。激しい胃痛で病院に行くと、最初は十二指腸潰瘍と診断されて薬を処方されます。けれど薬は効かず、夜も眠れないほどの痛みが続くために再度病院へ。2日前に寿司を食べたことを告げると内視鏡検査(胃カメラ)をすることになり、アニサキスが1匹発見されます。胃からアニサキスを引っ張って除去するときも、「激イタ」で大変だったそうです。

食中毒の原因となるアニサキスは、正確にはアニサキスの幼虫です。長さ2~3センチ、幅0.5~1ミリの白色・糸状の見た目で、肉眼で確認できます。日本近海だけでも約160種の魚介類に寄生することが知られており、魚介類が死亡すると幼虫が内臓から筋肉に移動します。

アニサキスは、①卵が海を漂う、②海中で孵化してオキアミなどに食べられる、③オキアミを食べた中間宿主(サバ、イカ、カツオなどの魚介類)に幼虫の状態で寄生する、④中間宿主を食べた終宿主(イルカ、クジラなどの海洋哺乳類)の体内で成虫となり産卵する、⑤終宿主の糞便で海中に卵が放出される、という一生を送ります。

人がアニサキスの幼虫がいる魚介類を生で食べると、幼虫が胃壁や腸壁に頭部を潜入させて激しい腹痛を引き起こしたり、アレルギー反応を起こしたりすることがあります。

「急性胃アニサキス症」では、食後数時間後から十数時間後に、みぞおちの辺りに激しい痛み、悪心、嘔吐を生じます。アニサキスアレルギーでは、蕁麻疹が主症状ですが、血圧降下や呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状を示す場合もあるといいます。基本的に治療薬はなく、胃にアニサキスが確認されたらば内視鏡を使って鉗子で除去、それ以外では対症療法が中心となります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

農林中金、4ー9月期の純利益846億円 通期見通し

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、財務相・日銀総裁会談

ビジネス

日経平均は4日続落、米エヌビディア決算控え売買交錯

ワールド

ウクライナ西部で爆発、ロシアがミサイル・無人機攻撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story