コラム

犬猫マイクロチップ装着の3つの利点 他の動物、人間の埋め込み状況は?

2022年06月07日(火)11時25分
マイクロチップを装着する猫

専用の読み取り機を埋め込まれた部分にかざすと、15桁の個体識別番号が表示される(写真はイメージです) LuckyBusiness-iStock

<個体を識別できるマイクロチップを埋め込むことで、迷子になっても飼い主の元に帰りやすくなったり、飼育放棄を防ぐ効果が期待されている。犬や猫といった伴侶動物以外でも、西欧では90年代に競走馬への装着が広まっていた>

環境省は1日から、ペットショップやブリーダーなどで販売される犬や猫について、マイクロチップの装着を義務化しました。2019年に「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正されたことによる措置です。

販売業者は譲渡前までにマイクロチップを装着し、環境省のデータベース「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へ登録を行うことが義務付けられます。

飼い主の立場から見ると、今後はペットショップなどから犬や猫を迎えた場合は、飼い主が30日以内に所有者変更の届け出を行う義務が生じます。知人や保護団体から譲り受ける場合は、マイクロチップの装着は必須ではありませんが、努力義務とされています。6月1日以前から所有している犬や猫についても、マイクロチップの装着は努力義務です。

東日本大震災後に注目されるように

健康な犬や猫の体内に、わざわざマイクロチップという「異物」を入れることに抵抗を感じる飼い主もいるでしょう。

マイクロチップは、直径2ミリ、長さ1センチ程度の円筒形の電子標識器具です。金属物質の周囲を生体適合ガラスで覆っていて、アレルギーや異物反応が起こりにくいようにしてあります。装着は、獣医師が専用の注射器を使って行います。

部位は、首から肩甲骨の辺りの皮下に注射します。まったくの無痛というわけにはいきませんが、犬や猫にとっては予防接種と同じくらいの痛みだと言われています。マイクロチップ装着による身体への負担はほとんどないと考えられており、品種にもよりますが、犬は生後2週齢、猫は生後4週齢頃から埋め込むことができます。

埋め込まれた部分に専用の読み取り機を当てると、世界で唯一の15桁の個体識別番号(ISO規格)が表示されます。この番号から、飼い主の名前や住所、連絡先などを確かめることができます。

伴侶動物へのマイクロチップ装着は、2011年の東日本大震災の後に注目されるようになりました。震災で飼い主と離ればなれになってしまった犬や猫は、自治体等に保護されました。首輪に迷子札や犬鑑札が付いていた場合は、ほぼ100%飼い主が判明しました。けれど、首輪がはずれたり首輪から迷子札が取れたりしたケースでは、多くの犬や猫が飼い主とは再会できませんでした。

マイクロチップを装着する第一の利点は、上記のケースのように、迷子になったり災害で飼い主と離れてしまったりしても、飼い主の元に帰りやすくなることです。これまでは迷子に備えて首輪に連絡先を書いた札を付けることが多かったのですが、特に災害や事故の場合は外れてしまうこともありました。体内に埋め込まれたマイクロチップならば脱落する可能性は低く、半永久的に装着できます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story