コラム

満開の桜が見られなくなる? 60年寿命説、地球温暖化──花見に迫る危機とは

2022年04月05日(火)11時20分
桜の花見

桜の名所に見られる密集した'染井吉野'は傷みやすい? y-studio-iStock

<平安時代から続いてきた桜を愛でる春の宴は、'染井吉野'の寿命の問題と気温上昇のために近い将来できなくなるかもしれない>

コロナ禍の影響で花見の宴会ができなくなってから、3回目の桜の季節になりました。開花を伝える桜前線は3月末までに東京や金沢まで北上し、長野や新潟、東北、北海道を残すところになりました。

今年の桜は、全国で平年よりも2~4日程度早い開花日(各地の標本木で5~6輪以上の花が開いた状態となった最初の日)でした。ちなみに満開日は、東京では開花のおよそ7日後で、標本木の約80%以上のつぼみが開いた最初の日を指します。

東京の標本木は靖国神社にあり、2020年と21年は観測史上1、2位となる最も早い開花日でした。今年は昨年よりは6日遅いものの、平年より4日早い開花となりました。

花見の起源は奈良時代、桜の観賞は平安時代から

花見は、四季の変化に富む日本で春の訪れを愛でる伝統的な行事です。

起源は、奈良時代の貴族が中国から伝来した梅の花を観賞したことにあると言い伝えられます。かつては、日本に古来からある桜よりも、中国産の珍しい花である梅を愛でて宴を開くことが一般的でした。

現在の元号「令和」の由来は、日本最古の歌集である『万葉集』であると知られています。巻五には約千三百年前に詠まれた「梅花の歌三十二首」が収められており、序文である「初春の令月にして気淑(よ)く風和らぎ 梅は鏡前の粉を披(ひら)き 蘭は珮後(はいご)の香を薫らす」から引用されました。この序文は、「梅花の宴」を開いた当時の大宰府長官、大伴旅人が認(したた)めたものです。

万葉集には桜を詠んだ歌も収録されていますが、桜の花見が始まったのは平安時代と考えられています。『日本後紀』には、嵯峨天皇が 弘仁3年(812年)に京都の神泉苑で「花宴之節(かえんのせち)」を催したと書かれています。記録に残る最古の「桜の花見」です。

平安時代中期には、桜の花見はさらに一般的になります。文学作品でも「源氏物語」には宮中で桜を愛でて宴を開く様子が描かれ、「古今和歌集」には桜の名所として吉野が登場します。三万本あると言われる吉野の桜は、ほとんどが日本固有種である野生のヤマザクラです。

鎌倉時代になると、花見は武士や町人にも広まり、寺社などにも桜が植えられるようになりました。源頼朝や室町時代の足利将軍家も花見を行った記録がありますが、戦国時代や安土桃山時代になると大々的な花見の宴を開く武将が現れます。特に盛大だったのは、豊臣秀吉が文禄3年(1594年)2月27日(新暦4月17日)に開いた「吉野の花見」です。総勢5千人の参加者には徳川家康、前田利家、伊達政宗らの武将や茶人、連歌師らが含まれており、吉水院(吉水神社)を本陣として5日間開催されました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・メキシコ、北米貿易協定見直しプロセスを再来週開

ワールド

トランプ氏、ネタニヤフ氏の恩赦を再度要求

ビジネス

EBRD総裁、トルコのインフレ対策を評価

ビジネス

中銀の独立性、インフレ抑制に「極めて重要」=米シカ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story