コラム

運営停止に追い込まれた香港民主派メディアが筆者に語ったこと

2022年01月15日(土)18時30分

逮捕された立場新聞の林紹桐・代理編集長(中央) TYRONE SIUーREUTERS

<中国共産党の自治政策を話し合った時に飛び出した「香港民族」の矜持>

2021年暮れの12月29日早朝、香港政府は200人もの警察を動員し、ネットメディア「立場新聞」の関係者7人を緊急逮捕した。

香港で民主派の主要なメディアが壊滅状態に追い込まれたことが、世界に少なからぬ衝撃を広げた。逮捕されたのは立場新聞前編集長の鍾沛権と、その妻で蘋果日報(アップル・デイリー)元副編集長の陳沛敏、代理編集長の林紹桐、それに21年6月まで立場新聞の理事を務めていた歌手でポップスターのデニス・ホーらだ。

警察は同社を捜索して取材資料を押収し、総計6100万香港ドルに上る資産を凍結した。立場新聞は14年に弾圧された香港の民主化運動「雨傘運動」の直後に創刊された。

元理事のホーはそれまで雨傘運動に全身全霊で身を投じ、推進役を務めた。カナダで教育を受け、同国民でもあるホーは民主化運動が弾圧された後の香港に危機感を抱き、19年7月には国連人権理事会で、9月には米議会で証言。中国を世界の民主主義陣営の敵だと批判した。

香港を守り、中国を国連人権委員会から追放するよう英語で発信し続けた。また、ホーは台湾を訪問し、香港で約束されていた一国二制度が有名無実化した実態を伝えていた。

台湾統一を「偉大な中華民族の復興」の目標の1つとする習近平(シー・チンピン)政権からすれば、危険人物の代表格だった。

ホーだけでなく、反中メディアとして既につぶされた蘋果日報の陳が立場新聞と連携しながら発言し続けてきたことも中国は許せなかっただろう。立場新聞は19年の反政府デモ行進の様子をオンライン生中継で世界に伝え、地下鉄駅で発生したデモ隊に対する無差別攻撃「白色テロ」の真相を究明しようと追跡し続けていたからだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=S&P・ナスダック1%超安

ワールド

金総書記が北京到着、娘も同行のもよう プーチン氏と

ビジネス

住友商や三井住友系など4社、米航空機リースを1兆円

ビジネス

サントリー会長辞任の新浪氏、3日に予定通り経済同友
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 5
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 6
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 7
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 8
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story