コラム

ルペンの国民戦線が党名を変更する訳

2018年03月22日(木)17時30分

表面的には、党名は変わっても、基本となる政策や路線に変更はなさそうだ。引き続き、反グローバリゼーション、反EU、反移民という基本路線のもと、マクロン大統領とその巨大与党「前進する共和国」や、ヴォキエ新党首のもとで巻き返しを図る共和派に対抗して、政権政党を目指すという方針を、こんどの党大会でも重ねて表明している。

ドゴール時代への郷愁

ただ、脱ユーロを主導してきたフィリポ派の離党により、ヨーロッパ政策には微妙な軌道修正が見え始めている。ユーロからの離脱については、脱EU政策の中での優先順位を下げることをルペン党首は明らかにしている。

また、自分たちが反対するのは今のEUという形の行き過ぎた欧州統合であって、決してヨーロッパそのものを否定するのではないということを、最近とみに強調するようになった。自分たちが求めるヨーロッパは、ブラッセルとベルリンに支配され指揮されるEUではなく、フランスを始めとする各国民国家が十分主権を保持したままで連合する「ヨーロッパ国民(国家)連合」(Union des nations européennes)だというのだ。

この考え方は、かつてドゴールが主張していた「諸国民(国家)のヨーロッパ」(Europe des nations)という言葉と重なる。各国の主権の維持を前提とした政府間協力としての統合を意味するこの言葉は、ドゴール大統領が渋々ながら欧州統合への参加を受け入れた際に、その条件として述べたものだ。ルペンの志向する「ヨーロッパ国民(国家)連合」とは、ドゴール時代のヨーロッパへの回帰を意味するといっても過言ではなかろう。

ドゴール派の流れを汲む共和派が今や欧州統合推進の側に回ってしまっている一方、その穴を埋めるように拡大してきた国民戦線が、こうしたドゴール時代への郷愁を誘う戦術で、すっかり共和派のお株を奪う形になっていることは、歴史の皮肉というべきか。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

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