コラム

共和党に拡がる厭戦気分、日本はウクライナ支援に関与し続けるべきなのか

2023年08月21日(月)14時49分
バイデン大統領と岸田首相

仮に、2024年大統領選挙で共和党候補者が勝利することがあれば、米国の対外関与方針が激変する可能性がある...... REUTERS/Jim Bourg

<共和党・民主党・無党派を含めた米国世論の過半数は、現状のウクライナ支援の継続を必ずしも支持しておらず、また仮に、2024年大統領選挙で共和党候補者が勝利することがあれば、米国の対外関与方針が激変する可能性もある。日本政府が対応すべきこととは......>

8月23日に予定されている共和党の大統領選挙予備選・第1回討論会に合わせて、米国共和党のタカ派グループがウクライナ支援を擁護する広告キャンペーンを実施する予定だ。しかし、逆説的に、同広告キャンペーンは同党内での厭戦気分の高まりを示すものとなっている。

現在、予備選挙に立候補しているマイク・ペンス前副大統領は、ウクライナに対する支持を打ち出したものの、共和党支持者からのウケはイマイチであった。逆に、共和党予備選挙で1位・2位争いを繰り広げるドナルド・トランプ前大統領とロン・デサンティス副大統領はウクライナに対する支援に懐疑的な態度を示している。

また、連邦議会での共和党の分裂も深刻だ。上院トップであるミッチー・マッコーネル院内総務はウクライナを支える姿勢を示し、欧州諸国との関係強化にも一貫して取り組んでいる。一方、連邦下院多数派を支配するケビン・マッカーシー議長は下院議員らの一部に拡がる厭戦ムードを受けてウクライナ支援に対して厳しい姿勢を取っている。マッカーシーの議長の座は非常に脆弱であり、ウクライナ支援を擁護するようなことがあれば、彼は同僚議員から批判を受けてその地位を追われる可能性がある。

岸田政権はウクライナ支援で連帯する大々的なメッセージを送ったが

共和党・民主党・無党派を含めた米国世論の過半数は、現状のウクライナ支援の継続を必ずしも支持しておらず、共和党内部に限れば地球の裏側の戦争に興味を示す人々は確実に減少している。ウクライナ支援を支持している層は主に民主党支持者であり、共和党支持者との対外軍事支援に関する認識の差が明瞭となっている。

ゼレンスキー大統領率いるウクライナの対ロシア反転攻勢は、十分な航空支援を得ることができておらず、口先だけの欧州からの援助は微々たるレベルで遅延しがちだ。ロシアとウクライナの争いを継続させ、ロシアを疲弊させる捨て駒としてウクライナを利用し続けたい欧州の本音が丸見えだ。したがって、今後もバイデン政権と欧州諸国は生かさず殺さずの支援を実施し、膨大な資金・資源をウクライナ国内の戦場で浪費し続けることになるだろう。

岸田政権はG7でバイデン政権・欧州諸国とウクライナ支援で連帯する大々的なメッセージを送った。この対応は西側諸国の一員として、欧州から対中国のコミットメントを得ることを意図したものであろう。しかし、欧州諸国は隣国のウクライナにすらロシアに勝てる支援を行わない国々であり、彼らとの外交的な信頼関係を過大評価してはならない。実際、日本はウクライナ支援に出来得る限りのコミットメントをしているにも関わらず、フランスなどはNATO日本事務局を置くことにすら難色を示している。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、ロシア産原油輸送の「影の船団」阻止を検

ワールド

ロシア拘束の米記者、スパイ容疑の審理非公開で実施 

ワールド

NATO加盟20カ国超、24年に国防費2%目標達成

ワールド

米印、貿易や産業協力の障壁巡り対応へ 「技術流出防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 5

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 6

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 7

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 8

    ジョージアはロシアに飲み込まれるのか

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story