コラム

ウクライナに対する復興支援に日本の納税者の納得はあるのか

2024年02月02日(金)15時46分
岸田文雄首相

ウクライナの復興支援に日本が深く関与する必要があるのだろうか...... FRANCK ROBICHON/REUTERS

<日本政府がウクライナに対して無条件で支援に前のめりになっている姿勢には疑問を感じる。リスクと機会のバランスを見極めながら、戦時下の投資リスク、腐敗問題、そして国際支援のダイナミクスを分析する......>

昨年11月に日本とウクライナの両首脳は、今年2月19日に東京で日ウクライナ経済復興推進会議を開催することに電話会談で合意した。同会議に向けて日本側は官民を挙げた復興支援事業の体制を打ち出す予定となっている。

バイデン政権がウクライナによる反転攻勢が失敗していることを前提とし、その長期的な継戦能力を高めるための経済支援を充実させる方向に舵を切ったことに歩調を合わせるものだ。


ただし、筆者は日本政府がウクライナに対して無条件で支援に前のめりになっている姿勢には疑問を感じる。対ロシア戦争において、極東地域における欧米のパートナーとして、一定の協力を行うことについては理解できるものの、ウクライナの復興支援に地理的に遠く離れた日本が深く関与する必要があるのだろうか。

日本のウクライナ復興支援への疑問とリスク

実際、ウクライナ経済復興支援事業に対して、日本企業が取り組むリスクは大きい。

昨年10月5日に総理官邸で行われたウクライナ経済復興推進準備会議(第三回会合)の議事録においても、「戦時下のウクライナとの連携は我が国の民間企業にとっても大きな困難を伴うものであり、日本企業がウクライナ側と案件形成を積極的に進められるよう、官側の支援策についてはあらゆる機会を活用し、より一歩踏み込んだ形で検討・実施してほしい。」と記載されている。

日本政府が日本企業に指示し、彼らに高リスクの投資を実施させるなら、そのための十分な支援策を準備することは当然のことだ。ウクライナは戦時下であり、ロシア側が現状以上の兵器投入を行った場合、日本企業の投資が水泡に帰す可能性も十分にある。

しかし、そもそも停戦合意すら行われていない地域に、日本企業が大量のリソースを投下させる日本政府の判断こそが根本的な間違いだ。仮に国際社会の誰かがウクライナ支援を実施するとしても、ウクライナの復興支援は自らの投資を自らの軍事力で守ることができる欧米が実行することが筋だ。

自国の投資に対する生殺与奪の権利を有していない戦地に多額の資本投下の保証は誰がするのか。万が一失敗した場合、日本政府が日本企業に対して補償するというなら、それは日本の納税者が負担することになる。日本の納税者はそのような危険が伴う無謀な投資を選挙で承認した経緯はない。自民党が2022年に参議院選挙で掲げた公約は、人道復興支援であって経済復興支援ではない。

戦時下のリスクとウクライナの腐敗問題

また、ウクライナ側の腐敗問題も深刻だ。汚職・腐敗防止を監視する国際NGO団体「トランスペアレンシー・インターナショナル」が実施している世界汚職度指標において、ウクライナの世界ランキングは常に腐敗が蔓延している低位国に位置付けられている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、10月は米・中向け大幅減 対EU増加で

ビジネス

グーグル、AI学習でのコンテンツ利用巡りEUが独禁

ワールド

植田日銀総裁、10日午後1時52分から衆院予算委に

ワールド

蘭ASMLの顧客に中国軍関係企業、地元TV報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story