最新記事

戦争

戦争体験者はあと数年でいなくなる──悲惨さを語り継ぐことの重要性

2022年8月24日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
平和祈念式典

今年の終戦の日に行われた全国戦没者追悼式 Yuichi Yamazaki/POOL/REUTERS

<終戦時に成人していた戦場体験世代は、2020年には国民の0.5%にまで減り、今後数年でほぼゼロになる>

不安定な国際情勢もあり、戦争の恐怖が頭をもたげてきている。日本は第二次世界大戦で壊滅的な打撃を被り、かつ世界唯一の被爆国ということもあり、「戦争は絶対にいけない」という国民意識はひときわ強い。

だが終戦後77年経った今、惨劇の記憶は薄れつつあるようにも思う。2015年だったか、筆者が大学で教えていた頃、原爆がどこに落とされたかを知らない学生に出会ったことがある。学校で習わなかったのかととがめるのは簡単だが、戦争を実際に体験し、その恐ろしさを体温が伝わるような形で語ってくれる世代と接する機会が無くなっていることもあるだろう。

今の日本に、戦争を体験したことがある人はどれほどいるか。戦争が終わった1945年に5歳になっていた、1940(昭和15)年以前に生まれた世代と仮定してみる。筆者が生まれた頃の1975年だと、35歳以上の人たちだ。当時の『国勢調査』からその数を拾うと4761万人。総人口の43%をも占めていた。では、令和の2020年ではどうなっているか。<表1>をみていただきたい。

data220824-chart01.png

黄色のマークをつけた部分が、1940年以前の生まれ、ここで便宜的に定義した戦争体験世代だ。1975年では35歳以上だったが、2020年では80歳以上になっている。2020年の戦争体験世代は1132万人、人口中の割合は9.2%。70年代半ばと比較して、ずいぶん少なくなっている。今の子どもにすれば、祖父母も戦争体験世代ではない。戦争の怖さを肌身で知っている世代と接しにくくなっている。

なお赤字は、戦場に赴いて銃を握って戦ったことのある戦場体験世代で、終戦の1945年に成人になっていた、1925年以前に生まれた世代としている。この世代は1975年では2360万人(国民の21.1%)だったが、2020年ではわずか57万人(0.5%)。あと数年したら皆無となる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買

ビジネス

中国外貨準備、4月は予想以上に減少 金保有は増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中