最新記事

金正恩の頭の中

「これでトランプ完敗」先手を打った金正恩と習近平の思惑

2018年4月10日(火)16時00分
ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

トランプの完敗は既に確定

加えて習は、米中関係のさらなる悪化がアメリカの痛手となることをトランプに教えたかったのだろう。米中間に亀裂が入れば、北朝鮮を孤立させ、圧力をかけることは不可能になる、と。

一方、金にとっては習の招待はまさに渡りに船だった。制裁の影響で経済は疲弊。国民が困窮する一方で、アメリカは軍事的圧力を強めており、このままでは体制維持は望み薄だ。急ピッチで開発を進め、アメリカ本土を狙える核兵器を手に入れたとはいえ、トランプとの会談では最初から分が悪いことは金も分かっていたはずだ。

習と会談する前は、金が米朝会談で得られるのはせいぜい時間稼ぎか、外交経験の浅いトランプをおだてて大きな譲歩をしたように見せ掛け、制裁の緩和を取り付ける程度だった。

だが金の北京訪問で、米朝の力関係は変わった。習が経済援助や新たな制裁の阻止など支援を約束したとすれば、金はトランプとの会談でさほど大きな譲歩をせずに済む。たとえ習が支援の約束をしていなくても、金は中国の後ろ盾があるような顔をして、堂々とトランプと渡り合える。

今や米朝会談に期待できるのは、非核化と緊張緩和の原則についての曖昧な合意づくりくらいのものだ。具体的な中身はなく、期限も設定されないだろう。こうした結果は中国の利益にかなう。自国の影響力低下を避けられるばかりか、朝鮮半島の核危機解決の責任をアメリカに押し付けられるからだ。

金にとっても中身のない合意は都合がいい。外交協議が続く間、アメリカは圧力を弱めると考えられるからだ。

それでもトランプは外交上の勝利を大げさにアピールするだろうが、トランプの完敗であることは隠しようがない。金が会談を呼び掛けた時点で、トランプはどこで何を話すかも知らずに性急に飛び付いた。金が制裁に懲りて話し合う気になったとみて、自分のほうが有利だと思い込んだからだ。

【参考記事】北朝鮮メディアの「沈黙」から読み取れる対米政策の変化

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平会議、ロシアも参加すべき 中国大使が

ビジネス

台湾、AIブームでETF投資過熱 相場反転に警戒感

ワールド

豪、中国軍機の豪軍ヘリ妨害を非難 「容認できない」

ビジネス

米規制当局、金融機関の幹部報酬巡るルール作りに再着
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中