最新記事

北朝鮮

北朝鮮メディアの「沈黙」から読み取れる対米政策の変化

2018年4月11日(水)11時35分
ロバート・カーリン(スタンフォード大学国際安全保障協力センター客員研究員)

大げさで形式的な表現の裏にたくさんの事柄が見え隠れする KCNA-REUTERS

<その発言と無言を注視すれば、金正恩政権の政策の変化は手に取るように分かる。来るべき米朝首脳会談で何を狙っているのか。本誌4月17日号 「金正恩の頭の中」より>

急に現実味を帯びてきた米朝首脳会談だが、まだ準備は始まったばかり。北朝鮮政府も国営メディアも慎重に口を閉ざしている。北朝鮮を訪問し、続けて3月8日に訪米した韓国特使団がドナルド・トランプ米大統領に会い、首脳会談を望むという金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の意向を伝えた出来事も、国営メディアは伝えていない。 

3月25日に中国を電撃訪問した金が習近平(シー・チンピン)国家主席との会談で「非核化」に言及したことも報じられていない。金の言葉を報じたのは中国の新華社通信だ。しかし北朝鮮の「沈黙」はよくあること。いや、正しくは沈黙ではない。北朝鮮が言うこと、言わないことを注視すれば、彼らが昨年とは態度を一変させたことがよく分かる。

例えば3月9日以降、国営メディアは核開発計画に関する勇ましい報道を控えている。一方で、アメリカと交渉の余地があると示唆する姿勢は見せ始めた。労働党機関誌・労働新聞は3月23日付で、経済制裁は「アメリカの敵視政策の結果」と書いた。つまり、アメリカが敵視政策をやめて制裁を緩和すれば交渉に応じるということだ。

米韓合同軍事演習への不満も聞こえてこない。3月25日付の労働新聞は韓国の防衛力強化を批判したが、「対話と対立は両立しない」と指摘するにとどめた。例年なら合同軍事演習を非難するところだが、金が韓国の特使に(今回だけは)容認を伝えたので沈黙した。合同演習がスタートした4月1日も報道はなし(ただし、その日に金が平壌での韓国芸術団のミュージシャンらの公演に顔を出したことは報じた)。北朝鮮の主要メディアは2月26日を最後に、米韓合同軍事演習には全く触れていない。

米朝会談についても直接の言及はしていないが、北朝鮮メディアの論調は明らかに変わってきた。朝鮮中央通信は3月20日に、米朝関係に「変化の兆しが見られる」と伝えている。そして米朝首脳会談の可能性を念頭に置いて、「双方が交渉のテーブルに着く前にあれこれ言って雰囲気を壊す」ような「狭量な」姿勢は好ましくないとクギを刺し、今こそ「慎重さ、自制心、忍耐をもって、あらゆるアプローチを試みるべき」だと強調した。

政策変更をにおわす書き方

北朝鮮は国営メディアばかりでなく、日本の朝鮮総連の機関紙である朝鮮新報を通じてもポジティブな合図を送っているようだ。韓国特使がワシントンを訪問した直後の3月10日、同紙はいち早く平壌駐在の特派員による「分析」を掲載した。

【参考記事】「これでトランプ完敗」先手を打った金正恩と習近平の思惑

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中