最新記事

金正恩の頭の中

「これでトランプ完敗」先手を打った金正恩と習近平の思惑

2018年4月10日(火)16時00分
ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

非公式訪問でも盛大な晩餐会が催されるなど、金正恩は国賓級のもてなしを受けた KCNA-REUTERS

<急速な融和ムードはすべて金正恩の計算通りなのか。トランプが大胆な外交上の賭けに出る前に、電撃的な中朝会談を行い、主役の座を奪って交渉の力関係を変えた2人の腹の内とは? 本誌4月17日号 「金正恩の頭の中」より>

米朝首脳会談実施の電撃発表が世界を驚かせた3月8日の時点では、ドナルド・トランプ米大統領は史上まれに見る輝かしい外交的離れ業をやってのけたかに見えた。しかも、この離れ業、大きな実りをもたらす可能性がある。

「交渉の達人」を自称するトランプが北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長から譲歩を引き出し、朝鮮半島の非核化に道筋をつけたら、世界を脅かす時限爆弾の信管を抜いたことになる。これは誰が見ても大手柄だ。

ところがトランプが大胆な外交上の賭けに出る前に、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が舞台上にしゃしゃり出て主役の座を奪ってしまった。金が3月25日から4日間、中国を訪問したのだ。

金と習が杯を交わし、にこやかに歓談する写真を見て、あなたはどう思っただろう。隙間風が吹いていた中朝関係がようやく正常に戻った? いや、事態はそれよりはるかに複雑だ。

中朝首脳会談はさまざまな臆測を招いた。習の戦略的な動機は何か、金の思惑は? さらにトランプと金の会談にはどんな影響が及ぶのか。

今回の訪中は、金にとって11年末に父親の後を継いで以来初の外遊だ。そのタイミングからすると、トランプに先手を打つため習が金を招待したとみていい。北朝鮮経済は中国に大きく依存しており、中国は伝統的に北朝鮮に大きな影響力を持ってきた。習は、金が自分の頭越しにトランプと交渉して合意に至れば、自国の影響力が大幅に低下すると警戒していた。

金はトランプに何を要求するつもりなのか、ぎりぎり譲れない線は何か。それを聞き出すことが習にとっての中朝会談の狙いだったはずだ。

米中関係はここ数カ月、急速に冷え込んでいる。今や米政界では、長期的に見て中国はアメリカの戦略的なライバルだという見方が広く共有されている。折しもトランプが宣戦布告した対中貿易戦争は、中国の報復で際限なくエスカレートしそうな気配だ。

こうしたなかで、習は地域のリーダーとしての自国の地位をトランプに見せつける必要があった。北朝鮮はトランプとの外交ゲームで習が使える数少ないカードの1つだ。中朝の仲むつまじい関係を見せつければ、トランプは5月に予定されている米朝首脳会談で、中国の利益と影響力に配慮せざるを得なくなる──習はそう踏んだのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中