最新記事

イギリス

次期英首相テリーザ・メイは「冷たい女」?

2016年7月12日(火)18時15分
ジョシュ・ロウ

Neil Hall-REUTERS

<テリーザ・メイは移民には厳しかったが、マーガレット・サッチャーよりは労働者や社会の絆に優しそうだ>

 これで万事休すだ。デービッド・キャメロン英首相からボリス・ジョンソン前ロンドン市長、英独立党の前党首ナイジェル・ファラージまで、ブレグジットの登場人物はほとんどが背後から刺されて退場した。

 そんな中、たった一人生き残った女性がいる――内相のテリーザ・メイだ。辞任するキャメロン英首相の後任として、マーガレット・サッチャーに続きイギリス史上2人目の女性首相になることが決まった。与党・保守党の党首選を争うはずだったアンドレア・レッドサムが撤退を発表し、キャメロンは11日、メイが新首相に就任すると発表した。

【参考記事】英国・メイ内相、首相就任へ:「もう辞めないで!」

 メイは一体どのような人物なのか。首相としての力量はいかほどか。以下は、メイについて知っておくべき5つのポイントだ。

■サッチャーと異なり、社会は存在すると考えている

 就任決定を受けて11日に英議会前で演説したメイは、首相就任後のビジョンを打ち出した。だがその内容は、同じ女性として何かと比較されてきたサッチャー元首相とは一線を画していた。

 社会は存在するという立場や労働者が主役になれる資本主義改革を重視する姿勢はサッチャーとは対照的だ。労働者の代表を取締役会の出席者に加えるという公約を掲げたメイは、次のように述べた。「企業が買収されたり閉鎖される状況下で利害が左右されるのは株主だけではない。従業員や地元のコミュニティー、そして国も、利害関係者だ」

【参考記事】次期英首相レースの本命メイは、21世紀版の「鉄の女」?

 一方で、長年政権の中枢にいたメイは、ビジネスの規制にはかなり寛容な姿勢で臨んできたし、地方自治体の予算を削減したことでも知られている。メイが公約をどうやって実行に移していくのか、今後も注視する必要がある。

■移民問題には強硬

 内相に就任したのは2010年。メイはそれ以来、政権が掲げた移民の年間純増数を10万人以下にするという公約の実現を託されてきた。結果は見るも無残なものだったが、メイは常に強硬な移民政策を推し進めてきた。

 2015年にはジョージ・オズボーン財務相が留学生を移民削減の目標数から除外するよう求め、メイと意見が対立したと伝わった。2013年には不法移民対策として、「国に帰れ、さもなければ逮捕する」と警告する全面広告を描いたトラックにロンドン市内を走らせたことで物議を醸した。それほど移民を減らそうとしてきた過去があっても、イギリスのEUからの離脱を問う国民投票で、メイは「残留派」に回った。

【参考記事】英EU離脱の教訓:経済政策はすべての層のために機能しなければ爆弾に引火する

■LGBT(性的少数者)の権利に対する立場は時代とともに変化

 1997年に国会議員になったメイだが、当初はLGBTの権利の擁護者でも何でもなく、権利拡大の法案には反対票を投じてきた。同性愛者と異性愛者の性交同意年齢を平等に統一する措置や、同性婚カップルが養子を取ることを認める法案にも反対の立場だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中