最新記事

ウィキリークス事件

米ジャーナリストはなぜ沈黙するのか

2011年2月25日(金)14時49分
ベン・アドラー(ワシントン)

瑣末な議論ばかりに終始

 ほかの国のメディアは、もっと積極的にウィキリークスを擁護している場合が多い。アサンジの祖国オーストラリアでは、主要紙のほとんどの編集者がジュリア・ギラード首相宛ての書簡に署名し、オーストラリアもしくはアメリカでのアサンジ訴追に反対する意思を表明した。

「ウィキリークスの活動は......メディアがずっと行ってきた活動と変わらない。政府が秘密にしておきたい資料を白日の下にさらすことを目的にしている」と、この書簡は記している。

「リーク情報を公表したとの理由でメディア組織を訴追することはアメリカで過去に例がなく、言論の自由を保障するアメリカ合衆国憲法修正第1条に違反する。また(訴追がなされれば)オーストラリアにおいても、メディア組織が政府にとって都合の悪い問題を報道することに重大な制限が及ぶ」

 注目すべきなのは、この書簡がウィキリークスを「メディア組織」と呼んでいることだ。ウィキリークスは伝統的な意味での新聞や雑誌ではないし、ラジオ局やテレビ局でもない。しかし、デジタルメディアの時代にニュース情報を収集・発表するのは伝統的なメディアだけではない。外交公電の暴露が報道の自由の対象になるかどうかは、アサンジをジャーナリストと認めるかどうかとは別の問題だ。

「ウィキリークスはジャーナリズムか、アサンジはジャーナリストかというさまつな議論が盛んになされているが」と、コロンビア大学ジャーナリズム・トラウマ・ダートセンターのブルース・シャピロ所長は言う。「私に言わせれば、それは問題の本質と関係ない。問題の本質は、ウィキリークスとアサンジが情報を発信していることだ」

 法律の専門家によれば、米政府は憲法修正第1条違反を避けるために、国家機密の公表ではなく、マニング上等兵が機密を入手するのを後押ししたことを理由にアサンジを罪に問おうとする可能性がある。しかし政府がこのような行動を取れば、すぐに歯止めが利かなくなり、情報提供者に働き掛けたことを理由に調査報道ジャーナリストが訴追されるようになる。

 アメリカのジャーナリスト養成専門大学院で指折りの権威があると見なされているコロンビア大学ジャーナリズム大学院の教員19人(全教員の半数をわずかに上回る人数だ)はオバマ政権に宛てた書簡に署名し、ウィキリークスの活動は憲法修正第1条の保護対象であり、訴追を行うべきでないと訴えた。アメリカのジャーナリズム大学院の教授たちがこの問題に関して発表した声明は、これまでのところこの1件だけだ。

「主要メディアはアサンジを十分に擁護していない」と、人権擁護団体「憲法上の権利センター」のマイケル・ラトナー所長は言う。アサンジが刑事告発されれば、政府の秘密情報を報道しようとするジャーナリストたちを萎縮させてしまうと、ラトナーは警告する。

 実際、訴追推進派のムケージー前司法長官はそういう萎縮効果を期待しているように聞こえる。ムケージーはFOXニュースに対し、こう述べている。「ニューヨーク・タイムズはこのような行動を取る前に、もっと躊躇すべきだったのだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中