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米中関係

ステルス初飛行は中国からの挑戦状

2011年1月17日(月)17時46分
デービッド・ケース

アメリカに抑圧されてきた積年の恨み

 中国人にとっては、この映像はどうみてもアメリカに叩きつけた挑戦状だ。流線型の黒い戦闘機が空を舞う姿は、記者会見で官僚が読み上げた決まり文句の何倍も多くのことを物語っていた。中国人、とりわけ多くの愛国主義者らにとっては最高に説得力のあるメッセージだ。

 長年、米中関係の根底にはアメリカの軍事的優位性があった。つい最近まで満足に飛行も潜水もできないレベルだった中国軍を完全に抑え込むため、アメリカは太平洋に空母を配置し、韓国と日本に米軍基地を置くなど、中国の「裏庭」で強大な戦力を展開してきた。

 その結果、中国は長年、アジアで従属的な地位に甘んじ、アメリカが台湾に武器を輸出したり、中国沿岸で米海軍が偵察行為を行っても容認するしかなかった(米国防総省は公海の航行であり、問題にならないと主張している)。さらに、石油資源が豊富な南シナ海の領土問題でも、アメリカの「干渉」を甘受してきた。

 米軍のプレゼンスがアジアの繁栄に貢献してきたことは疑いようがないし、アジアの多くの国が米軍を歓迎している。だが中国では、米軍がアジアで幅を利かせているのは「国家的屈辱の世紀」の名残だというのが通説だ。中国の貿易黒字を覆すためにイギリスから持ち込まれたアヘンのせいで多くの市民が苦しみ、植民地にされた19世紀の恨みを、中国人は忘れていない。

 中国人の論理で言えば、数十年に渡る貧困の時代を耐え抜いた末に、中国は記録的な経済成長を遂げて史上最強の輸出国となり、ようやく正当なパワーを取り戻した、ということになる。そこへ今度は、財政赤字と経済危機の余波に苦しみ、イラクとアフガニスタンの長引く戦争のストレスをかかえるアメリカが、緊張緩和を求めて歩み寄ってきたわけだ。アメリカは、カネのかかる軍事競争をやめようと甘い言葉で誘っている。

 J−20の試験飛行は、そんなアメリカへのメッセージだった。もう手遅れだ、と。

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