最新記事

米中関係

ステルス初飛行は中国からの挑戦状

ゲーツ米国防長官の北京滞在中に次世代戦闘機「J−20」の試験飛行を行った中国の真意を読み解く

2011年1月17日(月)17時46分
デービッド・ケース

お呼びでない? ゲーツは米中関係の改善と国防費の削減を目指して訪中したが(1月10日) Andy Wong-Pool-Reuters

 どれほど控えめな言い方をしても、それは外交上、非常に気まずい出来事だった。

 1月11日、中国人民解放軍は新型の次世代ステルス戦闘機「J−20(殲20)」の試験飛行を実施した。中国訪問中のロバート・ゲーツ米国防長官が北京の人民大会堂で、胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と会談するわずか数時間前のことだ。

 今回のゲーツ訪中の狙いは、近年で最悪の状態にある中国軍との緊張関係を和らげること。中国側は受け入れに乗り気でなかったが、ゲーツは訪中実現を熱心に働きかけた。

 米国防総省の財務事情も、ゲーツを訪中に駆り立てた要因の一つだ。訪中の数日前、ゲーツは国防総省の予算の大幅削減を発表した。巨額の財政赤字をかかえるアメリカにとって歳出削減は必至。中国との関係改善が進めば、戦闘機や空母のコストを削減できる。

ブロガーを招いて飛行映像をネットで公開

 ゲーツ訪中の真っ最中に次世代戦闘機の試験飛行を行った中国の狙いは何だったのか。

 最新鋭の戦闘機J−20はレーダーに探知されにくいステルス性能を備えており、早ければ2017年にも実戦配備する計画だという。中国は、アメリカが考える以上のスピードでアメリカ並みの軍事力を備えつつあることを誇示したかったのか。あるいは、米中の軍事レースを中止するつもりはないという中国軍上層部の意向の表れなのか──。

 胡錦涛と会談したゲーツがJ−20問題を切りだしたところ、奇妙なことに胡は試験飛行の実施を把握していなかった様子で、後になって実施を認めたという。ただ、試験飛行のタイミングについては「今回の訪中には絶対に何の関係もない」と胡に言われたと、ゲーツは会見で明かした。

 その言い分を信じるのかと質問されたゲーツは、「胡主席の言葉を信じる」と答えた。しかしメディアの関心は、中国政府による文民統制が崩れているのではないか、来年の主席交代を前に強硬派が権力を強めているのではないかという点に集中した。

 興味深い疑問だ。しかし、それは問題の中核ではない。公的なメッセージが厳密に管理されている中国では、言葉そのものよりもその象徴的な意味のほうがずっと重要だ。中国共産党の指導層は一枚岩には程遠いが、戦争になれば軍部が戦闘機を飛ばすのだから、誰が試験飛行の日程を決めたかという点自体は大した問題ではない。

 しかも、彼らはゲーツの中国滞在中に試験飛行を行っただけでなく、現地にブロガーを大勢招待していた。おかげで、J−20の映像が中国国内の多くのネットユーザーの目に触れることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノルウェー、パレスチナ国家承認へ

ビジネス

日経平均は続落、注目イベント控え調整ムード 金利上

ビジネス

英CPI上昇率、4月は前年比2.3%に鈍化 予想は

ビジネス

新発10年国債利回り1.0%に上昇、弱い入札で売り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中