最新記事

米メディア

ペンタゴン・ペーパーズ 映画で描かれない「ブラッドレー起用」秘話

2018年3月31日(土)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ちょうどその頃、ベン・ブラッドレーがニューズウィークから二度にわたって昇進の機会を与えられたが、必然的にニューヨークへの転勤を伴うものだったため、二度ともその昇進を断わったという話が伝わってきていた。彼とはさまざまな仕事で何度もニューヨークに行ったり来たりしたことがあったし、会議や昼食で同席したことがあったのだが、彼自身のことは詳しく知っているというわけではなかった。フィルのひどかった時代に彼がフィルに肩入れしていたことを連想せずにはいられなかったが、一方で彼はニューズウィークのワシントン支局を見事に運営していたし、有能な人材を周囲に集めており、人の受けも非常に良かった。私には、彼の卓越した能力が会社にとって非常に有用であることが分かっており、彼を失うことを恐れた。ハンサムで魅力的だったから、いずれどこかのテレビ・ネットワークに引き抜かれる恐れが十分あったのである。

ベンの野心がどのようなものかを知るために、昼食に招いた。そのようなことをするのは初めてだった。当時は女性の方から男性を昼食に招待して料金を支払うのはまだ一般的でなく、気詰まりなことだったので、 一九六四年の一二月、私はFストリート・クラブに彼を招待した。そこは請求書にサイン〔当時はまだクレジット・カードがなかった〕できたので、どちらが支払うのかを決める場面を避けることができた。今の人たちから見れば、奇妙に思われるかもしれない。

その時の会話は、いろいろと脇道にそれた。ニューヨークのニューズウィークになぜ行こうとしないかも訊いてみた。もっとも、彼とトニーとの間には六人の子供があり、四人は彼女の連れ子で、二人が彼ら自身の子供であること、そのほかにベンの若い頃の結婚でもうけた子供ベン・ジュニアもいるので、住宅環境を変えるのは非常に難しいだろうということは分かっていた。彼は、このワシントンで支局を運営しているのが大変楽しいこと、そして昇進のために急いで転勤したくはないと考えていることなどを話した。

「しかし、将来的には何をやりたいの?」と私は訊いた。

「そうですね。せっかくお尋ねいただいたわけですから申し上げると」とベンは、彼特有の華麗な言葉遣いで答えた。「もし可能ならば、ポストの編集局長として残りの人生を捧げたいですね」

私は驚愕した。これは彼の予想していた質問ではなかったのだろうし、また私の予想していた答えではなかった。正直に言えば歓迎したくないものだった。しかし、かねてからの私の懸念を考慮すれば、当然考えられる回答であった。私がベンに伝えたかったのは、将来の希望について話し合うということであって、今すぐに実現しようとか、ごく近い将来に具体化しようというものではなかった。しかし、ベンは明らかに彼のポストの可能性が開けたと考えた。そして、したたかにその可能性を追求した。私を見かけるたびに、「今度はいつ頃、もう少し詳しいお話ができますか? 次の段階としては何をやりましょうか?」と問いかけてきた。私は彼の執拗さにびっくりしてしまった。

私はまず、この案をスコッティーに相談する機会をつくった。スコッティーはベンを個人的にはよく知らなかったが、多分うまくいくだろうと考えていた。ウォルター・リップマンはべンをよく知っている一人だったが、好意的な態度で、ベンはポストのために大きなことをやってくれるだろうと言った。これに元気づけられて、私は話をフリッツに持ちかけたが、彼も大賛成だった。またオズ・エリオットも、もちろん賛成だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中