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考えが深い人になるには? 「具体」と「抽象」で世界の解像度を変える【思考法】

2024年8月8日(木)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

《右》ほど精神的であり、《左》ほど現実的である。

少しいじわるな質問をしよう。「1万人の命と1人の命、どちらが大切ですか?」。さて、あなたはどう答えるだろうか? 

即答できた人はあまりいないと思う。もちろん1人の命より1万人の命のほうが重大に決まっているが、そう言い切ってしまうと非常に冷たい人間のように受け取られる。「命の重さは全員同じです! 比べることはできません!」と答えるのも正論であるが、議論から逃げている感じがする。

この質問にどう答えるかが、《左》と《右》のバランスである。1万人の命か1人の命、どちらかしか救うことができないとすれば、1万人の命を救うのが当たり前だ。もしあなたが迷わずこの考えを選んだとしたら、かなり現実的な《左》側で判断をしたことになる。

逆に、あなたがもしも「命の重さは同じです!」と即答したとしたら、かなり精神的倫理的な《右》側で判断したということだ。どちらの判断も正しい。現実的な価値観と精神的な価値観、どちらが正しいというわけではなく、多くの場合はそのバランスで悩み、最終判断をすることになる。

たとえば、ドクターヘリを1機増やせば離島に住む人々の命を救えるのだが、同じ予算で救急車を10台増やせるとしたらどうだろう? 現実的に考えて救急車10台のほうが多くの命を救えるので、救急車が優先されることになる。《左》に寄った判断だ。

同じ医療問題でも、倫理的な《右》が優先されるときもある。たとえば、難病の治療方法を探すために人体実験をすることは許されない。仮に1人を犠牲とする人体実験で1万人の命が救われるとしても、やっぱり許されない。

2つの対立概念をつなぐことが「思考すること」である

現実的な価値観と精神的な価値観の対立はよく起こる。そして、ほとんどの場合はバランスをとることになる。このバランスが「頭のよさ」だ。《左右》どちらかに振り切ってしまうと、よくないことが起こる。

効率と数字を優先させて、離島の人々の命を軽く考えてはいけない。反対に、より倫理的にスピリチュアルに考えれば、人の命もネズミの命も同じ重さだが、だからといって動物実験まで禁止すると医学は進歩しなくなる。

具体的になればなるほど、目の前の現実を見ることになる。抽象的になればなるほど、崇高ではあるが現実からは離れた理念を語ることになる。

ここで言う《左》の世界は、「現実的」のほかに「実際的」「実践的」「客観的事実」というような言葉が該当するだろう。《右》の世界は、「精神的」のほかに「倫理的」「理念的」「主観的真実」という言葉が該当する。

これらの現実的な《左》の世界と精神的な《右》の世界は対立することが多いが、必ずしも矛盾するわけではない。これら2つの世界をつなぐものが、まさに「思考」なのだ。

◇ ◇ ◇

谷川祐基『賢さをつくる』(CCCメディアハウス)


谷川祐基(たにかわ・ゆうき)

日本教育政策研究所代表取締役。1980年生まれ。愛知県立旭丘高校卒。東京大学農学部緑地環境学専修卒。小学校から独自の学習メソッドを構築し、塾には一切通わずに高校3年生の秋から受験勉強を始め、東京大学理科Ⅰ類に現役合格。大学卒業後、「自由な人生と十分な成果」の両立を手助けするための企業コンサルティング、学習塾のカリキュラム開発を行う。

著書に『仕事ができる 具体と抽象が、ビジネスを10割解決する。』『見えないときに、見る力。:視点が変わる打開の思考法』『賢者の勉強技術:短時間で成果を上げる「楽しく学ぶ子」の育て方 』(共にCCCメディアハウス)がある。

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 谷川祐基[著]
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