最新記事

中国経済

中国の消費は世界を救えない

2009年7月24日(金)14時38分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 一方、個人の貯蓄率はアメリカでは5%にも満たないが、中国は30%。中国人の大半は年金がなく、医療費も前金で自己負担しなければならない。いざというときの備えの必要性は、アメリカよりはるかに深刻だ。

 広東省の人々は、現実が統計で見るよりはるかに危なっかしいものだと分かっている。「多くの工場経営者と話をしたが、6週間以内に受注が増えないと工場は立ち行かなくなると言っていた」と、広東省社会科学院・地域経済競争力研究センター主任の丁力(ティン・リー)は言う。

 中国は過去、景気刺激策で成功を収めてきた実績がある。97~98年のアジア通貨危機のときも、01年のITバブル崩壊のときもそうだ。だがいずれの場合も、政府支出は応急処置にすぎず、世界経済(と中国の輸出)が回復するまでの時間稼ぎをすればよかった。

 だが今度は事情が違う。アメリカには景気回復の兆しが見える。アメリカほどではないが、欧州もそうだ。だがそれでも中国の輸出は減り続けている。ということは、今回解雇された2000万人の労働者が再雇用されることもないだろう。スイスの銀行UBSの推定では、失業者の数は今年さらに1500万人増える見込みだ。

 楽観主義者は、中国政府がリッチであることに期待を掛ける。「中国共産党は今や世界で最も資金が潤沢な金融機関だ。財源に制約はない」と、証券会社CLSA(上海)のエコノミスト、アンディ・ロスマンは言う。中国経済に強気なことで知られる彼は、来年の成長率を7~9%と予測する。

 信用危機の渦中では一党独裁に一定の強みがあると考えるエコノミストが多い。政治的・法的な制約を受けずに支出を増やせるからだ。中国最大級の国有銀行のある幹部は言う。「政府がもっと貸し出しを増やせと言うので、そのとおりにした」

まだ足りない消費の原資

 中国は、社会的な安全網をつくり始めている。社会保障が整って将来への不安が少なくなれば、人々は貯蓄をする代わりにもっと消費するようになる。数カ月前、中国政府は1240億ドルを使って公的医療保険を整備し、今後3年間で国民の90%に行き渡らせることを決めた。

 だが米投資銀行大手モルガン・スタンレー・アジアのスティーブン・ローチ会長が指摘するように、その額は1人当たりたった50ドル。「ほんのはした金」だ。また中国の社会保障基金の資産規模は820億ドルで、労働者1人当たり100ドルにも満たない。この額は倍増させるべきだし、中国にはそれだけの金があるとエコノミストたちは考えている。

 だが、中国政府は06年から社会保障制度を充実させると言い続けながら何もしてこなかった。国民も、2011年までに国民皆保険を実現するという温家宝(ウエン・チアパオ)首相の言葉を信じていない。

 もちろん、所得が増えれば消費も増えるだろう。中国の1人当たりGDPはまだ2000ドルにすぎない。だが、それには付加価値の低い製造業から世界に通用する中国ブランド製品の生産へ産業構造を進化させる必要がある。

 いま中国の輸出品の大半は単に組み立てただけのもので、設計や企画は外国のもの。利益の大半、そして消費の原資となる給与の大半は国外に行ってしまう。

 広東省のあちこちで、政府関係者や工場経営者たちはより洗練された製品を作るための設計や製造技術を研究している。だが統計によれば、この地域で生産される製品の約60%は付加価値の低い組み立て加工製品だ。

 中国が先進的な輸出大国になるまで、中国経済は国家の助けに頼るしかないだろう。 

[2009年7月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

再送-イスラエル、ガザ南部で軍事活動を一時停止 支

ワールド

中国は台湾「排除」を国家の大義と認識、頼総統が士官

ワールド

米候補者討論会でマイク消音活用、主催CNNが方針 

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 7

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 8

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中