コラム

花のマスクをかぶった「最後のマッチョ」──老いた現実

2019年04月04日(木)20時15分

From Aki-Pekka Sinikoski @akipekkasinikoski

<「Last Machos」のテーマは「フィンランド人男性とは何なのか」。独特の写真哲学でフィンランドの人々を撮るアキ・ペッカ・シニコスキー>

今回取り上げる写真家は、フィンランド人のアキ・ペッカ・シニコスキーだ。その写真手法はファインアート的でありながら、本人は「ドキュメンタリー写真家」と自称する40歳の男性である。

独特の写真哲学を持っている。写真は現実の前にある、透き通るカーテンのようなものと定義している。その瞬間は永続的な一つのアイデンティティを表してくれるが、時としてさまざまなものを覆い隠すのだという。目に見えている現実の裏にもさまざまな事実があり、またその瞬間その瞬間ごとに、われわれのアイデンティティはさまざまな形に変化する、と。

多くの写真プロジェクトは、独創的でコンセプチュアルだ。例えば、フィンランドの戦後世代(第二次世界大戦後の世代)である年老いた人々を被写体とした「Last Machos」シリーズ。そのタイトル――「最後のマッチョたち」――が示すように、がんこで、とっつきにくく、マッチョをプライドとする、つい最近までフィンランドに典型的と言われた人たちだ。

ただし、マッチョそのものがテーマではない。老いた現実、それに直面する人間の変化と孤独、そしてフィンランド人男性とは何なのかが真のテーマだ。それは世代、ライフスタイルに違いこそあれ、シニコスキーの初期のプロジェクト「Finnish Teens」(フィンランドのティーンたち)から同様なテーマとして継続されたシリーズでもある。

いろいろな写真手法により「Last Machos」は撮影されている。典型的なストリートフォトグラフィーや伝統的なポートレートだけでなく、見えないものへのドキュメンタリーとしてもだ。

3番目のドキュメンタリーでは、ストリートフォトグラフィーではまず遭遇できないであろう家の中に閉じこもった人々がしばしば被写体になっている。彼らの隠された心情を描写した写真だ。被写体との話し合いを重視し、年老いた彼らに他人からどう見られたいかを尋ね、その心情をメタファーとして構築している。

冒頭の写真は、その一例だ。被写体の男性は、筋肉がなくなり、皮膚が垂れ下がり、日常の動きは緩慢になってきている。長年連れ添った妻はもはや歩くことができない。若かったときは美しい花のようだったはずなのに、今や人生の晩秋で、自身の葉はなくなり続けていると感じている。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story