コラム

どうもスッキリしない、河井前法相夫妻の選挙違反疑惑

2020年01月16日(木)17時30分

この2つの疑惑を重ねてみると、一つのストーリーが浮かびます。それは、河井氏夫妻は、広島の自民党県連の中でライバルと争っていた、そのために県連の支持を得るのにカネをバラまく必要があったし、また運動員の確保を妨害されたり、過大な報酬支払いを密告されたという可能性です。

そこで該当の選挙を振り返ってみると、その特異性は明らかです。昨年2019年7月の参院選・広島選挙区(定数2)では、地元の中国新聞の報道によれば党本部が県連の頭越しに2人擁立を決め、党を二分する戦いになっていたというのです。つまり保守同士の「票の食い合い」が発生していました。その結果、河井氏が当選し、6選に挑んだ現職の溝手顕正氏は落選しています。ちなみに、河井氏は菅官房長官に近く、溝手氏は宏池会の岸田文雄氏の側近だそうです。

そう考えると、河井夫妻が簡単に「観念する」わけにはいかずに、雲隠れしたり居直ったりしているというのも、ある程度は理解が出来ます。さらに言えば、政治的な力比べの世界では、河井夫妻が「負けを認める」ことは、菅官房長官などの勢力が「ポスト安倍」争いで敗北することとなり、それは「できない」のかもしれません。

時間を稼いでいるのには具体的な理由もありそうです。まず、衆院議員の夫が辞任した場合、衆院の「補選」になるかどうかが解散のタイミングに関係してきます。妻の方の参院では、ライバルの溝手氏が「繰り上げ」にならないように引っ張り、選挙後の3カ月をクリアして「繰り上げ」が消滅した現在は、補選が統一地方選とのダブルにならないように「3月15日」以降まで辞任を引っ張る必要がある、そんな見方もできます。

一番スッキリしないのは、事件の背後にある政争があまり報じられぬまま、ズルズルと時間が流れていることだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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