コラム

民営化30年の明暗、JR北海道とJR四国の苦境

2017年03月30日(木)17時40分

まず、北海道の高橋はるみ知事が指摘しているように、直接の赤字補てんのような形で公的な支援をすることは得策ではないと考えられます。経営の健全性を確保する観点からも、永続性という観点からも避けるべきでしょう。

私は「上中下分離方式」を提案したいと思います。鉄道事業を「上」つまり実際の鉄道運行とメンテナンス、「中」として車両や電化設備など償却期間の比較的短い固定投資、そして「下」は線路や橋梁、トンネル、さらには駅舎など償却期間の長い固定設備の3つに分割して、「下」は国や道県が保有する、「中」は地元資金や企業・個人などの自発的支援を募って資金を調達するという考え方です。

その代わりとして「上」の部分、鉄道運行とメンテナンスは専門家集団である鉄道事業者が経営健全化の責任を負うというスキームです。こうすれば、JRの負担は軽減されます。だからと言って健全経営が簡単に実現できるとは思えませんが、こうした新たなスキームを真剣に考える時期だと思います。

【参考記事】プライバシー保護がスナップチャットの成長戦略

こう申し上げると「JRへの甘やかしではないか」とか「税金のムダ使いだ」という声が出るかもしれません。しかし、現在の日本の高速道路網は全国を3社のNEXCO(ネクスコ)という運営会社に分割民営化していますが、そのネクスコ3社は道路を一切保有していません。完全な「上下分割方式」で健全経営ができるスキームとなっているのです。

それを考えれば、少なくとも北海道と四国については、鉄道についても上下分離、あるいは私がここで提案したような「上中下の分離」というスキームを採用してみるのが、有効な解決策ではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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