コラム

参院選の争点がハッキリしないのはなぜか

2016年07月07日(木)18時50分

 さらに、与党が「増税先送り」をした一方で、野党側から「財政規律への懸念」が示されているという「対立軸のねじれ」が起きているという問題もあります。今回の増税再延期は、「英国のEU離脱問題」による円高株安で「自然に受け入れられた」形になりましたが、それでも議論として曖昧にすべきではないと思います。

 結果として、経済政策に関する具体的な論戦は成立しておらず、与党に対して「現状の結果責任」が問われれば厳しい評価にはなるが、野党の側でも「民主党が政権を担っていた際の低いパフォーマンス」の記憶が払拭できていないために、お互い「どっちもどっち」という状態――つまり政策議論は表面的で、そのくせ妙に拮抗した状態になっています。

【参考記事】都知事選に都政の選択肢はないのか?

 2つ目は憲法の問題です。与党は改憲が争点であることを隠してはいません。ですが、与党として具体的な改憲案を提示してはいないのです。

 いわゆる「自民党案」というものは存在しますが、この案をそのまま提示しても過半数の支持は得られないという判断があり、順を追って改正をしていくので、そのために「まずは一度改正しやすい点を改正して実績を作る」ことが目標のようです。

 では自民党案は棚上げするのかというと、そうではありません。ですから自民党案に反対する野党側としては「改憲そのものに反対」という態度を取るしかなくなります。そうなると、中間的な立場から実務的な改正を期待するグループは、どちらの側につけば良いのか分からないということになります。

 改正を是とするグループが政治的に「自民党案」の実現を企図しているのなら、中間派としては支持できないでしょう。ですが、改正に反対するグループが古典的な「護憲イデオロギー」に固執しているのであれば、こちらも積極的には支持できないと思います。

 このような状態で与党が積極的に争点にしないため、改憲議論は「モヤモヤ」した段階にとどまっているように見えます。

 残された時間はほとんどありませんが、有権者としては、あらためて与党側(プラス俗に言う改憲勢力)の「改憲への姿勢」と、野党側の「改憲反対」の中身を検証していくこと。そして与野党の「公共投資」「構造改革」「財政規律」についての立場を検証することが必要でしょう。そのためにも、「参院選の投票日直前なのに都知事選の話ばかり」というメディアには、猛省を促したいところです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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