コラム

「塾歴社会」の問題は、勉強内容がやさしすぎること

2016年03月08日(火)18時20分

学習塾通いで児童・生徒を消耗させる最大の問題は、学習内容がやさしすぎること byryo-iStock.

 首都圏では、中学入試の対策に「SAPIX」に行き、合格して中高一貫の受験校に通うようになると「鉄緑会」に通って東大を目指すというのは、別に今に始まったことではありません。ですが、そのような優等生向けの塾が、進学のエリートコースになっていることについて「塾歴社会」というネーミングがついたことで、あらためて話題になっているようです。

 確かに、この「塾歴社会」には問題があります。

 まず、小学校にしても、中高にしても「その学校で正規の教育課程を一生懸命やれば、それが評価され、その評価が上級学校入学の許可につながる」ということが起きず、学校の他に「塾」というのが存在するという構造が、無駄であり、消耗だからです。

 結果として、経済格差が再生産されて階層が固定化され、人材の活力がどんどん乏しくなるという問題もあります。また、優れた教育を受けることができるチャンスが、首都圏に限定されることも大きな問題でしょう。

 努力して「有名な中高に受かった」子供は、転校させると損だからということで、仮に親が転勤になっても帯同しないで、親は単身赴任する、そのために核家族の求心力が失われ、子供に対する家族形成のロールモデルが消えて行くという問題もあると思います。有名中学に受かったからだけでなく、そもそも子供が塾に通うために、親が単身赴任になることもあるようです。

 ですが、最大の問題は入試がやさすぎるということです。

 2点指摘したいと思います。

【参考記事】日本人の知的好奇心は20歳ですでに老いている

 1点目は、理系の場合「理科は2科目でいい」となっています。東京大学をはじめ、国公立の各大学も、私立大学もみなそうです。地学は除外するにしても、とにかく「物理、化学、生物」の3教科から2科目を選択することになっています。そもそも制度的に、センター試験では、理科は2教科「しか」受けることはできません。

 ということは、理系であっても、受験勉強としては「物理(あるいは化学、生物)を捨てた」学生が大学に入ってくるわけです。これは大変な問題です。現在の最先端技術というのは、この3分野が複合した形での知識が必要になることが多いからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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