コラム

「どす黒い言葉」をどう受け止めたらいいのか?

2011年04月20日(水)11時53分

 3月11日の大震災の直後に、阪神淡路の被災者のコメントとして、次のような内容の文書がネットを駆け巡りました。

「千羽鶴はゴミであり不要」

「自分探しのボランティアは迷惑」

「古着の山は屈辱」

 また、震災から1カ月弱が経過した時点で、津波の被災者をその妹が紹介するというスタイルで、次のようなコメント(長文からの抜粋です)がやはりネットで出回りました。

「正直、復興なんてクソ喰らえだと思うよ。」

「俺たちを幸せになんてふざけたこと思わないで、俺たちの分、そっちもみんな不幸になってくれたらなー」

「俺たちを想って歌とか作られても今は不愉快だから、東京も全部流されて、それでも『頑張ろう』って言われたら、頑張るよ。その人の歌なら聴く。」

 今回の震災では。ツィッターやブログなどのインターネットを通じたコミュニケーションが大きな役割を果たしたのは間違いありません。消息情報や救急搬送のニーズなどを伝える役割や、被災地へ激励を届けるなどの効果を発揮したのは事実です。ですが、同時にこのような「どす黒い言葉」がネットを通じて拡散してゆくという現象も生みました。では、このような「どす黒い言葉」を私たちはどうやって受け止めれば良いのでしょうか?

 1つは、ストレートに受け止めるという態度です。こうした大規模な災害の場合は、被災した地域に対して、被災しなかった地域では「助かって申し訳ない」という罪の意識を抱きがちです。こうした心理に対して、こうした「どす黒い言葉」はそのままストンとはまってしまいます。ある意味で、それは仕方がないことだとも言えるでしょう。言葉の持っている辛さが被害の大きさのリアリティになるということだと思います。

 ただ、こうした心理は、被災地とその他の地域の距離感を増大させるだけとも言えます。人々の心を萎縮させ、具体的な支援活動を躊躇させたり、過剰な自粛の元凶になったりするわけです。ストレートに受け止めるだけではいけないという感覚はそこから来ています。

 第2の態度は、否定するという姿勢です。平時においては、社会に対して愚痴や攻撃的な言葉をまき散らす人に対しては「華麗にスルー」という態度があります。これと同じように、いちいち言葉を受け止めて怒ったり傷ついてみたりする必要はないという考えです。また、日本の場合は等質社会だからネガティブな表現が許されているとか、匿名での発言はそもそも甘えだとかいう論評をする人もいるかもしれません。

 ですが、平時における「生きづらさ」をめぐる暴言などと比較しますと、今回の震災におけるこうした「どす黒い言葉」は、そう簡単に「スルー」はできなかった、そう考える人は多いと思います。また、平時のコメントと同じように批判の対象にすることには抵抗感があるのではないでしょうか?

 第3は、少し距離を置くという姿勢です。例えば、阪神淡路の被災者による「千羽鶴はゴミ」という発言は、恐らく避難所生活が安定し、衣食住と安全が確保された後に、自尊心やプライバシー、娯楽などのニーズへ移行した「後期の段階」の感想ではないかということが言えます。ですから、震災の直後の恐怖と緊張感の中で、少しの激励でも勇気づけられるという状態を前にした場合、こうしたコメントは「フェーズがずれた話だから真に受ける必要はない」という考え方は可能だったはずです。

 更に言えば「ボランティアが嫌がられる状態」というのは、有償の労働力ニーズが生まれて地元の雇用への期待が出てきたからだ、と見ることが可能です。正に「後期の段階」です。ということは「ボランティアが嫌がられるのは、地域が再生へと踏み出した」証拠であり、「ボランティアとしては成果として誇りに思うべきだ」だという「大人の見方」をすることも可能だというのです。ネットではそんな議論も目にしました。

 津波被災者の「復興なんてクソ喰らえ」というのも、距離を置いてみれば「この人は助かったんだな。生命の危険は去ったというシグナルとして受け止めればいいんだな」という見方も可能は可能でしょう。

 ですが、そうした「冷静な」受け止めだけでは、やはり済まないものもあるように思われます。理性はともかく、こうした「どす黒い言葉」というのは私たちの心に何かを突き刺してくるからです。

 もう少し考えを進めてみたいと思います。

(1)まず「どす黒い言葉」が「受け止められた」ことは評価すべきではないかと思うのです。こうした心の叫びは、深刻な被災の中から衝動的に生まれたものであり、被害者の正義を振りかざして人を支配しようとか、何かに甘えようというという計算はないと感じられます。言葉は痛々しいし、受け止めるのも辛いのですが、そこには「上下の感覚」はないのです。痛みを介在してではありますが、「言葉が受け止められる」ことで、被災者と被災しなかった人が「つながった」ことの事実は否定できません。

(2)こうした言葉は、災害のインパクトだけでなく、背後にある社会的な問題を提起しています。例えば避難生活の「後期」における精神的苦痛への対策は、阪神淡路の場合は全くの試行錯誤であったという反省から、今回は何とか精度を高めていかなくてはという受け止めができますし、また津波による被災者の憤怒の背景には、救援体制に重大な欠陥があると考えるべきだと思います。

(3)その結果として、ネットによる世論形成が進むという期待が持てます。個々の痛みの感覚が拡散されていって、無名の多数に届いたという事実が、問題提起や代案の提出になっていけば、ネットによる民主主義は前進すると思うからです。従来であれば政治家の事務所とか、役所の相談窓口とかに行っていた「苦情」が、ネットを通じて「開かれた訴え」として拡散した、そう考えればそれほど不自然なこととも思えません。

(4)勿論、人間の感情の暗い面を強調した表現、人を傷つけてしまう表現そのものは、回避できればそれに越したことはありません。ですが、今回のような大災害で、多くの人が犠牲になったり危険に晒されているような場合は、ストレートに不満や懸念が伝わることの効果を評価したいと思います。ただし、受け止める側は頑張ってクッションになり、それに対するレスポンスは礼節をもって行うべきでしょうし、良いレスポンスがあれば、最初にSOSを発した人も以降は冷静になっていく、そんな好循環を心がけたいと思います。

 今回の大震災は、SNSなどネットによるコミュニケーションが機能した初めての大災害ということで、例えばアメリカの全国紙『USAトゥディ』は先週大きな特集を組んでいました。そこでは、あくまで被災地での安否確認や、ニーズ発信という個別のコミュニケーションに絞った追跡がされていました。これに加えて、現場からのSOSと、これを受けた政策変更へ向けての世論形成という効果についても、様々な検証が必要と思います。緊急の課題としては、福島では何としても成功例を作ってゆかねばなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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