コラム

今、本当に必要な経済政策を提案する

2021年10月18日(月)12時07分

日本は、研究資金は足りないが、その理由は、人の数の不足、質の低下である。カネがないから人がないというのは結果論であり、鶏と卵ではなく、絶対的に人が先である。人がいれば、必ず金はやってくる。そして、研究者業界における最大の問題は、人材の層が圧倒的に薄いことである。

優れた人はいる。しかし、数が少ない。彼らが研究も引っ張り、大学院教育、大学教育も引っ張り、政策関係、政治的なこともしないといけない。無理だ。

いわゆる理科系とは異なるが、経済学でいえば、米国が圧倒的にレベルが高いが、トップもすごいが、本質は層の厚さである。とことん厚い。大学に籠って基礎的な理論をやり続ける人、応用分野で実業界ともやり取りする人、グーグル、マイクロソフトでも研究者、アドバイザーになる人、ワシントンで政権に入る人、シンクタンクに一時的に身を置く人、IMFエコノミストになる人、いろんな人がいるが、日本は、要はこれらを一人でやらないといけない。その結果、すべてが薄くなる。

さらに悪いことに、今後進むと思われるのが、政策マーケットに優秀な学者が入ってこなくなることだ。あまりに政治による経済政策は酷い。他の科学技術政策も酷いものが多い。政治のプロセスはあまりに前時代的だ。時間もエネルギーも取られ過ぎる。すべての研究者は気づいていたが、国のためと思い我慢してきた。その限界を今確実に超えつつある。

層を厚くするには、多くの研究者が必要だ。そして、その研究者を雇う雇い主が必要である。大学の体制にも問題があるが、最大の問題は、社会が、学者、研究者というものを軽視していることだ。企業は一部の研究職を除くと、研究者、博士号を持った人々を評価しない。修士号ですらそうだ。私の学校でMBAをとっても、評価されない。学部卒業生と同じ扱いである。むしろ学部生が好まれる。

海外のMBAだけを英語のために採用する日本企業

私の学校のMBAは駄目で、米国のMBAなら雇うのだが、それは英語力を評価しているだけだ。教育自体は評価されない。皮肉なことに、日本のMBAを評価してくれるのは、外資系ばかりだ。日本企業の考え方が間違っているのである。

実社会では、博士は頭でっかちで使えない、というが、それは社会の側の問題だ。

日本企業が博士を重視しないのは、社会そのものが学問を軽視しているからである。政策決定でも問題になっているが、科学的分析、学問の専門家の意見よりも、政治的都合、雰囲気、そして、根拠のない感覚、イメージで政策が決まっている。これは世界特有の現象だ。

韓国に日本が差をつけられた、ということがしばしば話題になるが、このひとつの理由は、韓国は、学問を重視する。ソウル大学の経済学部の教授は歴史的に大臣になることも多かった。そして、最大の企業サムソンが博士号を最重要視したことで、さらに加速した。土壌には、学問に敬意を持った社会があり、そして、企業が実際に博士を要求した。これで、すべての分野の学者のレベルも実業界の科学的な経営レベルも上がったのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story