コラム

今、本当に必要な経済政策を提案する

2021年10月18日(月)12時07分

日本の研究者は確かに研究しかできない雰囲気の人も多い。しかし、それは、研究が直接かかわる領域でしか、就職ができないからだ。社会が幅広く、博士、研究者を評価するようになり、いろいろな活躍の場ができれば、彼らの柔軟性、そして人材の多様性は育っていく。

同様な問題は、大学・大学院という研究の領域と同様に、初等教育、いや幼稚園、小中高、すべてに当てはまる。

経済対策と称して、子供1人に10万円配る。社会政策、若年層への社会福祉と称して、高校の授業料の無料化政策を実施する。

まったく間違いだ。

必要なのは、無料の教育ではなく、良い教育なのだ。安い教育を提供するのではなく、質の高い教育を提供することが唯一最大の公的教育の役割である。

低所得者への支援は別の形でいくらでもできる。教育費が高ければ、奨学金を充実させるのが一番だ。

政府、公的セクターにしかできないのは、質の高い公立学校を幼稚園、小中高に提供することだ。

さらに、最悪なことに、小中学校教育への投資の最大のものは、コロナ対応、オンライン授業にかこつけて、ICT、要は、カネを使ったモノの投入なのである。

180度間違っている。

ICT化より教師の質

教師の質を上げることだ。それがすべてである。

そしてある程度の人員の増加は必要で、かつ、部活動などの課外教育は、外の力を使い、学校の先生には、もっと授業そのものにエネルギーを注げる環境を作る。劣悪な労働時間を解消する。そうすれば、給料をそれほど上げなくても、人材は集まるし、何より優秀な人、教育に意欲のある人が定着するはずだ。

さらに重要なのは、教師を育てる教師を育てることである。

医者もそうだが、学校の教師はあまりに酷い。教員免許を取れば、その後は、形式的な研修があるばかりだ。これは、メディアでも話題になったが、結果として逆の方向に向かっている。研修がなくなる方向である。

そうではない。

無駄な研修はなくし、重要な質の高い教師への人的資本投資を行うことが必要だ。教員免許を与えた後の育て方も問題で、今回は詳細には議論できないが、チーム制を設け、チームで学級、学年を担当することが必要だ。その中で、若い先生は、中堅、ベテランのいろんな先生から吸収できる。行っている学校も一部にあるが、国を挙げて、よい教師の育て方の試行錯誤に投資すべきだ。

そして、無駄なお役所の書類だけの形式だけの中央からの監視は減らすべきだ。ただペーパーワークが増えて、教師が生徒に向き合う時間、授業の準備、改善に投資する時間を削っているだけだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、半導体関連は総じて堅調

ワールド

バイデン氏、ガザの大量虐殺否定 イスラエル人の安全

ビジネス

米自動車業界団体、排出量削減巡るEPA規則の2重要

ワールド

安保理、ロシアの宇宙決議案否決 米「核搭載衛星を開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 10

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story