コラム

「ロシア通のキングメーカー」登場でトルコは欧米からさらに離れる

2023年05月25日(木)13時50分

ロシア寄り政権が誕生する可能性

もし決選投票でエルドアンが勝利し、オアンが副大統領あるいはそれに準じるポストについた場合、新政権はこれまでよりG7と距離を置くことも想定される。オアンがロシアと深い関係を持っているからだ。

東西冷戦が終結した1989年にトルコのマルマラ大学を卒業した後、オアンはトルコ国際協力開発庁の職員として旧ソ連のアゼルバイジャンなどで勤務した。2000年に帰国したオアンはトルコの保守系シンクタンク、ユーラシア戦略研究センターに奉職してロシア・ウクライナ部長まで務めた経歴をもつ。

その後、2009年にはロシア外務省附属のモスクワ国際関係大学で博士号を取得している。

もっとも、オアンを「親ロシア派」とは断定できない。オアンが「トルコ人の世界」として重視するカフカスや中央アジアはロシアのナワバリでもあり、争奪の対象になるからだ。

とはいえ、その経歴に照らせば、少なくともトルコ屈指のロシア通であることは疑いない。

ウクライナ戦争に関してはこれまで目立った発言をしていないが、これ自体ロシアの立場を暗に認めるものと理解できる。

とすると、エルドアン=オアン体制が成立した場合、スウェーデンのNATO加盟の承認がさらに引き伸ばされるなど、欧米と距離を置いた対応も予想される。トルコ・ナショナリストの視点からすれば、トルコからみて重要度の高くないウクライナ問題でロシアに恩を売ることが、カフカスや中央アジアにおけるトルコの立場を認めさせる手段にもなるからだ。

ロシア通のキングメーカーの登場に揺れるトルコ大統領選挙決選投票の行方は、ユーラシアを挟む大国間の力関係にも影響を及ぼすとみられるのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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