コラム

日中の「援助競争」はアフリカの自助努力を損ないかねない

2022年09月02日(金)17時10分
チュニスで開催されたTICAD8

チュニスで開催されたTICAD8にリモート参加した岸田首相(2022年8月27日) Tunisian Presidency/Handout via REUTERS

<「自助努力支援」をアフリカ援助の公式目標とする日本だが、中国との金額の競い合いはそれを遠ざけることになる――TICAD8から考える>


・日本政府はアフリカ各国向けに300億ドルの資金協力を約束した。

・日本政府の最大の目的は、国際的な発言力の強化と中国に対抗することにあるといえる。

・しかし、中国との「援助競争」は日本だけでなくアフリカにとってもリスクを抱えたものである。

TICAD8での約束

8月27日〜28日、チュニジアの首都チュニスで第8回東京アフリカ開発会議(TICAD8)が開催された。

TICADは国連などとの共催で日本政府が1993年から開催してきた国際会議で、アフリカの開発を協議する場である。ケニアのナイロビでのTICAD6以来、アフリカ大陸で開催されるのは2回目だ。

コロナ感染のため初日の全体会合にリモートで参加した岸田首相は、今後3年間で官民あわせて300億ドル、日本円で約4兆円の資金協力を約束した。日本政府によると、その主な内訳は以下の通り。

・脱炭素への構造転換を見据えた「グリーン成長イニシアティブ」に40億ドル
・国連アフリカ開発銀行と協調した民間セクター支援に約50億ドル
・産業人材を5万8000人育成
・COVAXを通じた新型コロナワクチン支援に約15億ドル
・食料生産強化支援に3億ドル、緊急食料支援に1.3億ドル など

なぜアフリカに協力するのか

アフリカ研究者としては残念だが、毎回TICADの認知度は低い。しかし、これまでと比べても今回のTICADは国内で不評といってよい。

「アフリカに4兆円」のインパクトが大きかったのか、コロナ感染拡大に端を発する景気後退に加えて、ウクライナ侵攻による諸物価高騰のなか、なぜアフリカに支援しなければならないのかといった意見はネット上に溢れている。

ここで念のために確認すると、4兆円の全てがアフリカに対する善意の拠出ではないということだ。そこには二つのポイントがある。

第一に、そこには日本企業が利益を見込んで行う投資が含まれる。

前回2019年のTICAD6で安倍首相(当時)は日本企業による200億ドルの投資を約束した。今回、官民の内訳は明示されていないが、前回とほぼ同じ程度だとすると過半数は投資であるため、ただの支援というわけではない。

第二に、一般的に国際協力というと「相手のため」と思い込まれやすい(これは筆者が「国際協力の神話」と呼ぶものの一つ)が、そこに「人道」といった大義名分があるにせよ、ほぼ必ず自国の外交的(経済的とは限らない)利益が織り込まれている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story