コラム

ChatGPTはリサーチの助手として有能か? 犯罪学者が検証

2023年04月04日(火)08時50分
ChatGPT

ChatGPTのビジネス・教育分野への進出は確実(写真はイメージです) Ascannio-shutterstock

<犯罪学の専門家である筆者が「トイレで犯罪に遭わないために必要なことは何か」をChatGPTに質問。使用してみて分かった長所・短所は?>

人工知能(AI)を開発する米企業「オープンAI」が開発した対話型AI「Chat(チャット)GPT」のユーザー数が爆発的に伸びている。質問を投げかけると、人間との自然な会話のように文章を返してくれる優れものだ。AIなら、さぞかし素晴らしい回答が出てきそうだが、果たしてそうなのか。以下では、話題沸騰のChatGPTが、リサーチの助手として、有能か無能かを検討したい。

まずは、リサーチの総論から。
ビジネスや行政のリサーチでは、鳥の目、虫の目、魚の目、コウモリの目が重要である。


★鳥の目は、大所高所から物事の全体を俯瞰するマクロの視点。

★虫の目は、現場に密着し物事の細部を凝視するミクロの視点。

★魚の目は、時流に乗って物事の動向を追跡するトレンドの視点。

★コウモリの目は、逆転の発想で物事の常識を覆すリバースの視点。



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リサーチに必要な視点

筆者が関わっている学問の世界でも、「社会学」は鳥の目、「心理学」は虫の目、「歴史学」は魚の目から本質や真実を探る営みだ。ただし、社会学でも、虫の目が必要な「臨床社会学」や魚の目が必要な「歴史社会学」もあり、それほど単純な話ではない。心理学にも、鳥の目が必要な「社会心理学」がある。そこで、あえて社会学と心理学を区別するなら、社会学では最低2人の登場人物が必要だが、心理学では登場人物は1人でもいいということになろうか。

ハイレベルなリサーチを可能にする5つ目の視点

それはともかく、リサーチはアンケートや統計を用いる「量的調査」と、参与観察やインタビューによる「質的調査」に大別できる。量的調査は「広く浅く」というスタンスなので鳥の目、質的調査は「狭く深く」というスタンスなので虫の目だ。

さらに、本質や真実にたどり着くためには、時系列の視点、つまり魚の目も重要である。「歴史は繰り返される」からだ。ビジネスや行政では、この3つの視点に加え、コウモリの目も欠かせない。固定観念にとらわれていると、イノベーションが期待できないからだ。

「当たり前を疑う学問」と言われる社会学でも、コウモリの目は重要だ。例えば、社会学ベースの犯罪学は、社会を裏側から透視する学問である。言い換えれば、表通りではなく裏通りを歩き、ブライトサイドではなくダークサイドを照らすのが犯罪学だ。

筆者は、これら4つの視点に、さらにもう一つ付け加えたい。それはワシの目だ。鳥の目、虫の目、魚の目、コウモリの目が、いずれもリアル空間(フィジカル空間)を見るのに対し、ワシの目は現実空間とは別のバーチャル空間(サイバー空間)を見る。こうしてハイブリッドな「5眼思考」を駆使すれば、ハイレベルなリサーチが可能になる。


★ワシの目は、サイバー空間でデジタル情報を解析するクラウドの視点。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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