コラム

総務省接待問題が贈収賄事件に? カギを握るのは......

2021年02月24日(水)12時00分

菅首相の説明責任も問われている Issei Kato--REUTERS

<「文春砲」に端を発した総務省接待事件で、同省は調査結果を公表した。総務省と「深い」関係を築いてきた菅首相は、綱紀粛正を断行できるのか。そして、事件は強制捜査に発展するのか>

総務省は2月22日、東北新社による接待事件の調査結果を発表した。それによると、総務官僚計12人が受けた接待は延べ38件、合計53万4104円に達し、それ以外に現内閣広報官が総務省在職当時、7万円を超える接待を受けていた。週刊文春が報じた総務省幹部4人への接待は氷山の一角だったことが明らかになった。

東北新社から接待を受けた官僚12人の大半は、衛星放送事業を所管する情報流通行政局に関係していた。同局は総務省内で「情流(じょうりゅう)局」と略されるが、さしずめ「上級国民」ならぬ「上流国民」達による宴の後といった様相を呈している。

コロナ禍で外出自粛や飲食店等の営業時間短縮要請に苦しむ国民をよそに、日本橋の料亭をはじめとする飲食店で、高級料理に舌鼓を打った総務官僚に対して、国民の「怨望」が集まりつつある。38件のうち8件は、新型コロナ感染が国内で初めて確認された2020年1月16日以降に行われていた。

現内閣広報官の接待を含めた計21件の接待に現首相の長男が同席していたことから、「縁故主義」に対する批判も強い。菅政権が掲げる「既得権益の打破」という改革像が揺らぐことにもなりかねない。

今後、接待を受けた官僚に対する処分が「甘い」として国民の批判を浴びると、政権の支持率にボディーブローのように効いてくるだろう。公務員倫理制度の改正と運用厳格化だけではなく、放送事業の所管部局を総務省から独立させるという組織再編を求める声も生じてくるかもしれない。

今回の件でよく分からないのが、接待費用の処理が本当のところはどうだったかという点だ。

「自己負担分」振り込みは文春報道の前日

また、今回の調査結果では、接待の費用を負担したのは東北新社であると発表された。だが、自己負担分はその場で支払ったと主張している官僚がいるとも伝えられており、詳細は明らかにされていない。

「接待を行った側」の東北新社サイドから見ると、親会社と子会社の社長以下の経営幹部層が参加しており、あくまでも業務の一環としての官僚接待だ。接待費用をポケットマネーから支出しているとは考えがたく、店から領収書をもらい、「交際費」等の費目で会社経費として落とすのが通常だろう。

「接待を受けた側」の官僚がその場で自己負担分を現金で払っていたとしても、東北新社側の経費精算手続きで官僚自腹分(現金)をどう処理していたのかも不明だ。任意の調査で明らかにできる内容には限界がある。

調査結果では、幹部4人が接待費の「自己負担分」を振り込んだのが2月2日であることも判明した。週刊文春による報道第一弾が流れたのが2月3日だから、その直前だ。

しかし、利害関係者からの接待については、「原則は禁止。例外として自己負担(自腹)なら許容。ただしその場合でも自己負担額が1万円を超える場合は事前に届出しなければならない。事後的な報告は例外の例外」というのが、現在の国家公務員倫理規程の基本スタンスだ。

接待が発覚したからといって、事後的に負担分を「後払い」して、報告すればよいという取り繕いは通用しない。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ビジネス

中国、リチウム電池生産能力の拡大抑制へ 国際市場の

ワールド

台湾輸出、4月は予想下回る前年比+4.3% 対米輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story