コラム

「合意なきEU離脱」に突き進む英国 労働党は2回目の国民投票も選択肢に 党内では「内戦」が激化

2018年09月25日(火)14時00分

「隠れ離脱派」と言われる英最大野党・労働党のコービン党首 Hannah McKay-REUTERS

[英イングランド北西部リバプール発]英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)交渉が土俵際に追い詰められる中、リバプールで最大野党・労働党の党大会が9月23日から4日間の日程で始まった。党大会は開幕早々、大荒れの展開となった。ブレグジットを巡り与党・保守党は四分五裂に陥っているが、労働党でも「内戦」が激化している。

会場から「労働組合主導の党首選改革案では納得できない」という意見が相次いだ。投票にかけられた結果、54%対46%でようやく可決。労働組合員の90%が労組案を支持したのに対し、党首選の門戸をもっと開くよう求める党員の90%が反対した。「労組は恥を知れ」と大きなブーイングが起こり、党内の深刻な対立を際立たせた。

20180923_112542 (720x541).jpg
労組主導の党首選改革案に対して投票を求める党員たち(筆者撮影)

強硬左派のジェレミー・コービン党首を支持する新興の草の根左派運動「モーメンタム」は革新的な党内民主化を求めている。それに対し、労働党を支配してきた守旧派の労組、既得権に安住する現職議員らが抵抗する構図となっている。

kimura20180925102102.jpg
トム・ワトソン副党首と話し込むジェレミー・コービン党首(左、筆者撮影)

労働党員の86%が2度目の投票を支持

ネオリベラリズム(新自由主義)に邁進したトニー・ブレア元首相の「ニューレイバー」とは一線を画してきたコービン氏が2015年に党首になってから労働党はカオスに陥った。反ユダヤ主義を巡る混乱もその1つだ。

しかし、その一方で19万人だった党員は昨年12月時点で56万4000人を突破し、党員数では欧州最大となった。保守党は党員数を公表していないが、12万4000人とみられている。

コービン党首の下に若者、コスモポリタン、ニューリベラルが結集するという政治の地殻変動が「ブレグジット力学」にも大きな変化をもたらしている。世論調査会社ユーガブが党大会に合わせて実施した労働党員1054人調査では86%が2回目のEU国民投票を支持。反対はわずか8%だった。EU離脱は英国経済を損なうという回答は実に91%にのぼった。

「隠れ離脱派」と目されるコービン氏は離脱派なのか、残留派なのか態度をあいまいにしてきた。心の中では欧州の経済統合は英国の単純労働者を苦しめていると考えているのだが、おいそれと口には出さない。自分の支持基盤が若者中心の残留派だからだ。

コービン氏は英BBC放送の番組でこう話した。「好ましいのは総選挙だ。勝てば労働党が欧州との未来を交渉できる。しかし、今は党大会の結果を待とう。私は党内民主主義に従う」。政府の交渉結果が議会で否決され、コービン執行部の望む総選挙に持ち込めない場合、2回目の国民投票も選択肢に加えられる見通しだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story